覚醒剤は「覚醒剤取締法違反」という法律によって逮捕されています。逮捕後は、取り調べを受けて勾留され、判決によって刑が確定するといった流れです。
基本的に刑が確定するまで釈放される可能性は低いため、いかにして刑を軽くするか、早期の釈放を目指すかといったところに注力したほうが良いでしょう。
この記事では、覚醒剤で逮捕された場合の流れや今後の対処法について詳しく解説しています。自分自身や身内が覚醒剤取締法で逮捕され、どう対処すれば良いかわからずに悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。
覚醒剤で逮捕された場合の流れ
覚醒剤の容疑で逮捕された場合、そのまま勾留・起訴されて裁判となる可能性があります。逮捕後の流れを把握した上で可能な限り早めの対応をしておくことで、今後起こり得るリスクを軽減できる可能性があります。
まずは、覚醒剤の所持や使用等で逮捕された場合の流れについて詳しく解説します。
現行犯・通常・緊急いずれかの方法で逮捕
覚醒剤は所持や使用、密売等を行った場合に逮捕される可能性があります。逮捕は、以下の3種類あり、どの方法によって逮捕されるかによって今後の流れが若干異なります。
- 現行犯逮捕
- 通常逮捕
- 緊急逮捕
現行犯逮捕とは、たとえば覚醒剤を所持したり使用したりしている場面を取り押さえられてそのまま逮捕されることです。現行犯の場合は、逮捕状がなくても逮捕ができます。
テレビ番組等で職務質問を受け、そのまま覚醒剤所持で逮捕されているシーンをみたことがある人も多いのではないでしょうか。まずは、所持の容疑で逮捕し、その後の尿検査等でさらに使用の疑いでも逮捕するのが一般的な流れです。
通常逮捕とは、警察官等が裁判所に逮捕状を請求・取得した上で逮捕する方法です。もっとも一般的な逮捕の方法です。
通常逮捕は、たとえば第三者からの密告等を元に内定捜査を行い、逮捕状を請求して被疑者の元へ行って逮捕するという流れです。
緊急逮捕とは、重大な犯罪を犯した被疑者に対して逮捕状を取得することなく逮捕することを言います。たとえば、指名手配犯を見つけた際に、わざわざ逮捕状を取得していると取り逃してしまう可能性があるでしょう。
そういった場合は、緊急逮捕として指名手配半を拘束し、その後に逮捕状を請求する流れです。通常逮捕とは順番が逆になる上に、被疑者の身体を拘束することになるため、逮捕後は早急な逮捕状請求が求められます。
覚せい剤取締法違反による逮捕の場合は、現行犯・通常・緊急いずれの逮捕もあり得ます。つまり、職務質問を受けてそのまま逮捕される可能性もありますし、ある日突然逮捕状を突き付けられることもあるでしょう。もしかすると、緊急逮捕の可能性があるかもしれません。
逮捕から48時間以内に送致の有無を判断
警察官は、逮捕後速やか(48時間以内)に検察官へ事件を送致しなければいけないと定められています。
第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
引用元:刑事訴訟法|第246条
そのため、微罪処分となる場合を除いて、すべての事件を検察官へ送致しなければいけません。微罪処分とは、警察限りで事件を終結させることを言います。覚せい剤取締法違反の場合は、基本的に微罪処分にはなりません。よって、48時間以内に書類送検(送致)されます。
送致された場合は24時間以内に勾留請求の有無を判断
検察官が事件を受け取り次第、24時間以内に勾留請求の有無を判断します。勾留請求とは、被疑者を勾留するために裁判所へ許可を求める請求のことです。
逮捕から勾留請求までの制限時間は72時間(3日)ですが、この期間内は基本的に警察の留置施設(留置所)で過ごすことになります。
ただし、警察官が48時間以内に検察官送致をしなかった場合は、すぐに釈放しなければいけません。よって、この時点で釈放されている可能性も無きにしも非ずです。
覚醒剤事件の場合は、基本的に逮捕・勾留して捜査を行います。しかし、早めに弁護士へ相談をして手を打っておくことで、在宅捜査へ切り替わり、早期の釈放を目指せる可能性もあります。
逮捕後、もっとも早い釈放は48時間以内(検察官送致前)であるため、早期釈放を目指す場合は早めに弁護士へ相談しておきましょう。
勾留が認められた場合は最大20日間勾留される
検察官による勾留請求が認められた場合は、最大で20日間勾留されることになります。
ちなみに、勾留をするための要件は刑事訴訟法によって以下の通り定められています。
第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
② 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
③ 三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。引用元:刑事訴訟法|第60条
つまり、被疑者が居住が定まっていなかったり、証拠隠滅・逃亡の恐れがある場合に限って勾留できるということです。覚醒剤事件の場合は、覚醒剤を処分したり売人との連絡履歴を削除したり、逃亡したりする可能性がある場合は勾留請求が認められてしまいます。
勾留請求が認められると、最大で20日間勾留されてしまうため、この時点で23日間もの期間身柄を拘束されてしまうということです。
被疑者の勾留請求が認められた場合、その翌日から家族等の面会が認められます。当然、差し入れ等も可能であるため、もし、身近な人が逮捕・勾留された場合は、面会しに行ってあげると良いでしょう。
起訴・不起訴を判断
事件を受け取った検察官は勾留期限を迎える前に、被疑者を起訴するか否かについて判断をします。覚醒剤取締法違反の場合は、所持・使用等、その行為が実際に行われている場合は、初犯であっても起訴される可能性が高いです。
なお、起訴されると、被疑者から被告人に呼称が変わります。
起訴された場合は刑事裁判へ移行
起訴された場合は、刑事裁判へ移行します。日本では、起訴された場合の99.9%が有罪判決が下されると言われています。とくに、覚醒剤の使用や所持等、実際にその行為を行った事実があるのであれば、ほぼ確実に有罪判決が下るでしょう。
ただ、覚醒剤の使用や所持の場合は、初犯であれば執行猶予付きの判決が下されるケースが多いです。売買目的等の場合は、初犯であっても実刑判決となる可能性があるため注意してください。
覚醒剤で逮捕された場合の刑罰
覚醒剤で逮捕された場合は「覚せい剤取締法」という法律に従って刑罰が下されます。同法では、その内容や目的によって10年以下の懲役と定めたり、1年以上の懲役と定めたりしています。
次に、覚醒剤で逮捕された場合に受ける可能性がある刑罰について、詳しく解説します。
覚醒剤取締法違反の法定刑
覚醒剤取締法では、目的等によって以下のとおり法定刑を定めています。
- 覚醒剤を所持・譲渡もしくは譲り受けた物は「10年以下の懲役」
- 覚醒剤を使用「10年以下の懲役」
- 営利目的で覚醒剤を所持「1年以上の有期懲役 または情状により1年以上の有期懲役 及び500万円以下の罰金」
つまり、覚醒剤を使用目的で所持したり、実際に使用したりした場合は10年以下の懲役に処される可能性があります。また、営利目的で覚醒剤を使用していた場合は、1年以上の有期懲役となります。
有期懲役の最高刑は「20年」であるため、最大20年以下の懲役を受ける可能性があるため注意してください。
初犯の場合は執行猶予付き判決となるケースが多い
覚せい剤取締法違反で初めて逮捕された場合、大半のケースで執行猶予付きの判決となります。
執行猶予とは、直ちに刑の執行をせずに一定期間猶予し、罰金刑以上の刑に処されることなく期間が満了した場合は、刑が失効する制度です。たとえば、「懲役1年6カ月執行猶予3年」という判決が下った場合、懲役1年6カ月は直ちに執行せずに3年間猶予します。その後、3年間罰金刑以上に処されなければ、懲役1年6カ月という刑罰が失効します。もし、執行猶予期間中に罰金刑以上の罰を受けた場合は、懲役1年6カ月も加算されてしまうため注意しなければいけません。
ただし、初犯であっても事件の内容があまりにも悪質な場合は、実刑判決となる可能性があります。主に、以下の内容を考慮した上で判決が下ります。
- 常習性(使用回数等)
- 覚醒剤の所持量と目的
- 入手経路
- 更生の余地・本人の反省度
たとえば、営利目的で大量の覚醒剤を所持し、自分自身も幾度となく覚醒剤を使用していた場合は、相当悪質であると判断されてしまう可能性があります。一方で、微量で使用回数も少なく、本人も反省して意欲的に更生を誓っている場合は、執行猶予となる可能性が高いです。
再犯の場合は実刑判決となるケースが大半
覚醒剤取締法違反で再犯した場合は、実刑判決となる可能性が高いです。また、執行猶予期間中に有罪判決が下った場合は猶予されていた刑も加算されるため、長期間刑務所等へ入ることになるでしょう。
ちなみに、覚醒剤所持・使用の再犯の場合懲役2年程度となるケースが多いです。再犯回数が増えれば増えるほど、刑期も増えていきます。
覚醒剤で逮捕された場合の対処法
覚醒剤で逮捕された場合、初めにどう動くかで今後起こり得る影響が大きく変わります。そのため、これから紹介する対処法を元に、初動を検討してください。
直ちに弁護士へ相談をする
初めに、覚醒剤で逮捕された時点ですぐに弁護士へ相談をしてください。弁護士へ相談をすることで、その後の取り調べの対応方法や外部との連絡、交渉などを進めてもらえるためです。
初めに弁護士へ相談をしておけば、早期の釈放や面会が可能となったり、刑罰が軽くなったりなどさまざまなメリットが発生します。
弁護士は、逮捕された本人が付けることもできますし、家族等が代わりにつけることもできます。どちらにせよ、逮捕された時点でつけたほうが良いでしょう。
すべて正直に話す
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合は、すべてを正直に話すことで検察官や裁判官からの心象が非常に良くなります。たとえば、覚醒剤の入手ルートや売人の名前をすべて話してしまったほうが良いです。
とはいえ、自分を守るためには意地でも入手ルートを話せない、といった事情がある人もいるでしょう。そういった場合は、「自分が言ったことを絶対に言わない」という約束で話を進めるのが効果的です。
そもそも、覚醒剤の扱いは反社会勢力が関わっているケースが多く、入手ルートを話してしまうと、釈放後に自分の身が危なくなってしまう、いわゆる報復の可能性もあります。そのため「言いたくても言えない…」と悩んでいる被疑者がいるのも事実です。
とくに覚醒剤事件の場合は、1人が捕まって密告をすることによって売人から密輸経路まで芋蔓式で逮捕となるケースも珍しくはありません。警察や検察としては、そういったことを狙っていますが、被疑者としては自分の身を考えると話せないという事情もあるでしょう。
もし、入手経路等をすべて話せなければ、操作に時間がかかるため釈放までに時間がかかったり、判決に影響が出たりする可能性があります。その辺りを考慮した上で、どうすれば良いか検討すると良いでしょう。
具体的な再犯防止策を約束する
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合、少しでも量刑を軽くするためには具体的な再販防止策を約束するのが大切です。その場限りの約束をしても、検察官や裁判官は見抜いています。
そのため、具体的にどのようにして覚醒剤との関係を断つのか?について説明するべきでしょう。
たとえば、ダルクホームへの入所や売人との関係を切る、家族のサポートを受けて覚醒剤をやめるなどより具体的な対策を述べる必要があります。もし、曖昧なままであれば、「この人は再犯するのではないか?」と思われてしまい、判決等に影響を与えるでしょう。
【Q&A】覚醒剤で逮捕される可能性はある?よくある質問を紹介
覚醒剤の逮捕事例としてよくある質問を詳しく解説します。
Q.覚醒剤だと知らずに所持・使用させられた場合は逮捕される?
A.「故意」がなければ、覚醒剤取締法違反に問うのは難しいです。
覚醒剤だと知らずに所持したり使用したりした場合は、基本的に覚醒剤取締法違反に抵触しません。しかし、「故意」がないことが前提です。
故意とは、覚醒剤と知らなかったのみならず、知る由もなかったという事実が必要です。たとえば、錠剤型の覚醒剤を「頭痛薬」などと渡されて飲んだとしましょう。この時、「覚醒剤だとは知らなかった」という人が大半でしょう。
しかし、「頭痛薬」を渡されるまでの会話の流れや雰囲気、その人の態様などさまざまな事情を考慮して「故意がなかった」と証明されなければ、罪に問われます。たとえば、普段から覚醒剤を乱用している人が、「頭痛に効くよ」と言って錠剤を渡してきたとしましょう。
上記の場合は、「これは覚醒剤ではないか?」「何となく怪しい…」と、気付けるはずです。こういった場合は、「知らなかった」は通用しない可能性が高いです。
一方で、見知らぬ人に飲まされた、本当に痛み止めとして渡されて疑いの余地すらなかった、といった場合は故意がないとして罪に問われることはありません。
実務上は、「覚醒剤とは知らなかった…」というのは認められにくいです。そのため、予防策としては、疑わしいものは貰わないということを徹底するのが良いでしょう。
Q.覚醒剤で逮捕される主な原因とは?
A.情報提供によるものが多いです。
一般的には、情報提供によるものが多いです。たとえば、Aを逮捕した際にBから売ってもらった、と聞けば警察はBも捜査対象とします。
もし、Bが売人であれば、C・D・Eにも売った、と話をすることでC・D・Eも捜査対象となり、逮捕のきっかけになり得るでしょう。このようにして、芋蔓式で逮捕されるのが一般的です。
他にも、何度も覚せい剤取締法違反で逮捕されている人を見つけ、挙動がおかしい場合に職務質問をして…といった流れもあります。そのため、覚醒剤による逮捕のきっかけはさまざまです。
Q.再犯回数が増えると判決に影響が出る?
A.影響が出ます。
基本的に、初犯は大半のケースで執行猶予付き判決となります。しかし、2回目以降になると2年前後の実刑判決となるケースが多く、回数がますことに刑期が長くなる傾向です。
そもそも、何度も覚醒剤を繰り返し行ってしまう人は、更生の余地がないと判断され、より厳しい判決となるのは当然です。「更生する気がない」と判断されれば、判決へ影響を与えることになるでしょう。
まとめ
今回は、覚醒剤で逮捕された場合の流れや今後の対処法について解説しました。
覚醒剤の容疑で逮捕されると、そのまま勾留・裁判となるケースが大半です。初犯であれば、執行猶予付きの判決となる可能性が高いですが、再犯の場合は実刑判決が下る可能性が高いため注意しなければいけません。
また、逮捕された後の初動によって今後の起こり得る影響にもさまざまな差が発生します。少しでもリスクを低減するためには、早急に弁護士へ相談をするのが得策です。
今回解説した内容を踏まえ、今後の対応を検討されてみてはいかがでしょうか。