アリバイとは「その場所にいなかった」「存在することができなかった」ということを証明することを言います。一般的には、「犯罪現場にいなかった、いることができなかったことを証明する」といった意味合いで使用される言葉です。
アリバイの証明ができれば、犯罪を行うことは難しいため疑いが晴れるケースが多いです。しかし、どうすればアリバイを証明できるのか、アリバイ証明をできなかった場合はどうすれば良いのか、といった疑問を抱えている人も多いでしょう。
今回は、アリバイ証明の方法や証明できなかった場合の対処法について詳しく解説します。犯罪の疑いをかけられてしまっている人などはぜひ参考にしてください。
目次
アリバイを証明できる3つの方法
アリバイとは、犯罪が行われた場合に「その場所にいなかった」という事実を証明することを言います。たとえば、殺人現場があった場合、その場所にいなかったもしくは、存在することができなかったことを証明する必要があります。
殺人事件が発生した時間帯にその場にいなかった、もしくはいることができなかったことを証明することを「アリバイ」と言います。アリバイの証明はとても難しいのが現実です。
まずは、アリバイを証明できる3つの方法について、以下のとおり詳しく解説します。
- 目撃者を探す
- カメラの映像を確認してもらう
- その他改ざんが難しいもので証明する
アリバイ証明をできる方法について、それぞれ詳しく解説します。
目撃者を探す
アリバイとして有効なのは「目撃者」を見つけることです。たとえば、Aというコンビニで強盗事件が発生し、その被疑者として疑われていたとしましょう。この場合、犯行時間にAにはいなかった、もしくは行くことができなかったことを証明する必要があります。
そのため、物理的に犯行が困難である場所にいたことを証明する目撃者を発見することでアリバイを証明できます。
上記例の場合、Aが東京都のコンビニで犯行時間が深夜2時だったとしましょう。あなたは、この犯行時間(深夜2時)に遠く離れた北海道で目撃された場合、物理的に東京都にあるAでの犯行は不可能です。そのため、アリバイが証明されます。
証言をする人は友人や家族、通行人やお店の人など誰でも良いです。ただ、証言をする人は、嘘をついてしまえば自分自身が罪に問われてしまうため、虚偽の申告はできません。
もし、上記のようにアリバイが証明されれば、「犯行は困難である」と見なされるため、罪に問われることはないでしょう。
ただし、「1月1日深夜2時に東京都のコンビニで強盗事件が発生した」という事件の犯人として疑われているあなたが、「12月31日の午前中まで北海道にいたため犯行は困難である」と言うのはアリバイとして成立しません。
なぜなら、「飛行機に乗って東京都へ行き、強盗事件を犯すことは可能だった」という新しい可能性が疑われるためです。
アリバイを証明するためには、「事件発生時間に犯行は不可能だった」ということを証明する必要があります。そのため、何らかの方法で犯行が可能である場合は、アリバイとして証明することはできません。
カメラの映像を確認してもらう
アリバイを証明するために、カメラの映像を確認してもらう方法もあります。この方法は、先ほど解説した「目撃者を探す」と似ています。
目撃者は、あくまでも「あなたを見ました」という証言がアリバイの証明です。一方、カメラの場合は映像が「あなたはこの時間、ここにいました」という証明になります。
やはり、物理的に「犯行が不可能であること」の証明が必要であることは大前提となりますが、人の曖昧な証言よりも信憑性は高いです。そのため、アリバイ証明としての効果は、目撃者よりも有効であると考えられます。
ただし、カメラの日時は変更できるため、変更がない旨の裏付けも行う必要があります。何らかの間違いで時間にズレがあったり、日時の変更があるとアリバイの証明としては使用できないため注意してください。
その他改ざんが難しいもので証明する
目撃者やカメラ以外にも、アリバイを証明できる方法はあります。ただ、アリバイを証明するためには、前提として「改ざんが難しいもの」でなければいけません。改善できるものであれば、アリバイを証明したうえでの完全犯罪が成立できてしまうためです。
改ざんが難しいものとして、たとえば以下のような証拠がアリバイを証明できるでしょう。
-
- 通話履歴
- 電車等の乗車記録
- クレジットカードの利用履歴
等々…
通話記録の場合、誰と話をしていたかにもよりますがアリバイの証明となり得ます。とくに、固定電話や公衆電話から電話をかけていた場合は、その場にいたことを証明できる可能性が高いです。
また、電車等の乗車記録も一般的には改ざんが難しく、証明できればアリバイを裏付けることもできるでしょう。
さらに、クレジットカードの利用履歴も考え方によっては、アリバイの証明になります。たとえば、クレジットカード決済であれば、いつどこで決済をしたかがわかります。事件現場から遠く離れた店舗等での決済が認められれば、アリバイ証明になり得るでしょう。
ただ、人に貸してアリバイ工作を行っている可能性も否定はできないため、「偽装工作ではない証拠」を用意できていることが前提です。
ちなみに、インターネットの回線履歴は、特定のWi-Fi等を利用することによって残る可能性があります。そのため、「アリバイ証明になるのではないか?」と考えている人が多くいます。
たとえば、自宅に設置してあるWi-Fiに接続した記録がある場合、行動範囲はとても限定されます。そのため、当該機器を使用した犯罪である場合は、証拠となり得るのではないか?と考えるためです。
しかし、あなたが所有しているスマートフォン等(接続機器)と犯罪の内容が一致しなければ、アリバイの証明とはなりません。たとえば、「私は、事件が発生した時間は、自宅にいました。Wi-Fi記録を見てもらえればわかります」と言っても、スマートフォンが自宅にあった=アリバイ証明とはなりません。
なぜなら、「あなた所有のスマートフォンで自宅のWi-Fiにつなぎ、YouTubeに繋いだまま自宅を離れて犯行に及んだ」という可能性を否定できないためです。この事実を否定できる場合は、アリバイ証明となり得るでしょう。
アリバイを証明できない場合の対処法
万が一、アリバイの証明ができなければ、犯罪の疑いをかけられてしまう可能性があります。捜査機関等は、「犯罪を行った証拠」を集めて逮捕状を請求したり起訴したりします。
そのため、あなたは「犯罪を行っていない事実」を証明しなければ、逮捕されたり起訴されて有罪判決が下されたりしてしまうため注意しなければいけません。次に、アリバイを証明できなかった場合の対処法について詳しく解説します。
犯罪の証拠となっている事実を覆す
アリバイの証明が難しい場合は、捜査機関等が持っている証拠を覆す必要があります。
たとえば、コンビニ強盗事件出刃物が使用され、その刃物からあなたの指紋が発見された場合、「その刃物は、以前〇〇(居酒屋)で調理担当をしていた際に触れたことがあるため、そのときについたものであると思います」と言い、その事実が立証されれば刃物は証拠になりません。
その他の証拠がある場合は、上記のように覆すことで証拠として成立しなくなります。証拠がなければ、当然ながら逮捕状が発布されたり、起訴されたりすることはないため安心です。
決定的な証拠がない場合は起訴されない
警察等の捜査機関は、決定的な証拠がない場合は逮捕状の発布を請求できません。そのため、犯罪の疑いがある場合は、任意同行を求めたうえで取り調べを行って捜査を行い、逮捕上を請求する流れになります。
しかし、実際にあなたが犯罪等を行っていない場合は、証拠が出てこないことはもちろん、当然ながら自白をすることもないでしょう。そのため、起訴の有無を判断する際も、証拠不十分という判断が下されるでしょう。
つまり、あなたがすべきは「犯罪の証拠となっている事実を覆す」です。警察等の捜査機関は、何らかの自信(証拠)を持ってあなたを疑っているため、「自分ではない」という証明をする努力をしましょう。
アリバイ証明できずに逮捕された場合の影響
アリバイを証明することができず、万が一、逮捕されてしまった場合は以下のようなリスクが発生し得ます。
- 長時間の身柄拘束の可能性
- 会社を解雇されてしまう可能性
- 全国ニュースで名前等が公表される可能性
- その他社会的リスク
次に、アリバイ証明できないことによって起こり得るリスクについて、詳しく解説します。
長期間の身柄拘束の可能性
逮捕されてしまうと、長期間身柄を拘束されてしまう可能性があります。そもそも、逮捕とは身柄を拘束して取り調べを行う手続きを指します。そのため、逮捕された時点で初めに48時間身柄の拘束が行われ、その後24時間以内に検察官へ事件を送致する流れです。
その後、検察が身柄の拘束を継続する必要があると判断した場合は、勾留請求を行って身柄拘束を継続します。勾留請求は、原則最長20日までとなるため、この時点で23日間の身柄拘束が継続する可能性があるということです。
身柄を拘束されている期間は、自宅へ戻ることができません。当然、会社や学校へ行くこともできないため、さまざまな社会的リスクが発生し得ます。
また、勾留中に起訴・不起訴を判断する必要があり、正式起訴された場合はそのまま刑事裁判を受けることになります。実刑判決が下された場合は、さらに長期間の身柄拘束(刑務所への収容)が発生してしまうため注意してください。
会社を解雇される可能性
犯罪の内容によっては、会社を解雇されてしまう可能性もあります。通常、従業員が逮捕されてしまったという事実だけで解雇をした場合は、不当解雇になり得ます。しかし、犯罪の内容と会社に関係がある場合は、正当な解雇であると認められやすくなるため要注意です。
とくに大きな企業に勤めている場合は、「企業イメージを損ねることによる影響」が大きいと判断されやすいです。結果的に、解雇となる可能性が高まってしまうため、アリバイによって無実であることを証明する努力をしたほうが良いでしょう。
たとえ、あなたが犯罪を犯していないとしても、アリバイを証明できずに逮捕されたり有罪判決が下されたりすると、報道等によって企業イメージが損なわれてしまいます。そのため、事実有無ではなく「逮捕された」「有罪判決が下された」という事実を可能な限り回避しましょう。
全国ニュースで名前等が公表される可能性
大きな事件であればあるほど、全国ニュースで報道されてしまう可能性があるため注意しなければいけません。たとえ、自分が実際に犯していない犯罪であっても、あたかも犯罪者かのように報道をされてしまいます。
また、一度報道されてしまうと、その後は名前を検索するだけでヒットしてどのような犯罪を犯した人なのかすぐにわかります。そのため、その後に就職をしたり転職をしたりする際に影響を与える可能性があるでしょう。
その他社会的制裁リスクがある
逮捕されてしまうと、その犯罪を行った事実の有無に関わらず「犯罪を犯した人」として世間に認知されてしまいます。結果的に、会社をクビになってしまったり就職や転職がうまくいかないなど、その後の人生が大きく狂ってしまう可能性が高まります。
とくに社会的地位が高い人や世間の関心を集めやすい犯罪の疑いをかけられたりすると、社会的な制裁リスクはとても大きいです。
犯罪の疑いをかけられている場合の対処法
犯罪の疑いをかけられている場合、アリバイを証明することで自分の無実を証明できるかもしれません。しかし、万が一アリバイの証明を上手くできなかった場合は、そのまま犯罪者として取り調べ等が行われてしまう可能性があります。
そのため、犯罪の疑いをかけられた場合の対処法として、アリバイ証明以外の方法について詳しく解説します。
弁護士へ相談をする
初めに、必ず弁護士へ相談をしてください。弁護士は、あなたの味方になってくれる人です。アリバイの証明や無実の証明をするために全力で弁護活動を行ってくれます。
弁護士は原則私選弁護人といって自分で費用を支払って選任する必要があります。私選弁護人は、いつでも自分の好きなタイミングでつけることができるため、できるだけ早めに相談をしたうえで早期に弁護活動を開始してもらうようにしましょう。
早期の弁護活動は、その後の処分や手続き等に多大な影響を与える可能性があります。たとえば、弁護士へ依頼することで弁護活動によって早期に無実を証明でき、社会的制裁リスクを抑えられることもあるでしょう。
なお、弁護士は逮捕後・勾留確定後に国費で呼ぶことができる制度もあります。しかし、これらの制度はタイミングとしてはとても遅いです。なぜなら「逮捕されたあと」や「勾留が確定したあと」であるためです。少なからず社会的影響が出始めてしまうため、可能な限り早めに私選弁護人へ依頼をしたほうが自分のためになるでしょう。
絶対に嘘の自白をしない
アリバイの証明ができなくても、犯罪を犯したわけではないならば、絶対に自白をしないでください。自白をしてしまうとその内容が証拠として扱われてしまうためです。
自白は最大の証拠になるため、やっていないのであれば「私はやっていない」としっかり伝えるようにしてください。
ちなみに、犯罪によっては「今罪を認めれば処分が軽くなる」と言われる場合もあります。中には、「罪を認めればすぐに釈放される」と思う人がいるかもしれません。しかし、やってもいない罪を認め、本当の犯罪者を野放しにしてしまうことになるためしっかりと戦うべきでしょう。
供述調書等にはサイン・押印をしない
供述調書を取られた場合は、絶対にサインや押印をしないようにしましょう。サインや押印をした内容は、全て証拠として扱われてしまうため、内容によっては自分が不利になってしまう可能性があります。
そのため、弁護士と相談をしたうえで、まずは「何を話すのか」「何をすれば良いのか」を聞き、理解したうえで手続きを進めていきましょう。
違法な取り調べがあった場合は弁護士に伝える
違法な取り調べがあった場合は、すぐに担当弁護士へ伝えるようにしましょう。たとえば、大きな声で怒鳴られた、殴られた、自白を強要されたなどは違法な取り調べです。
万が一、上記のような状況下で自白をしてしまった場合は、証拠になり得ません。しっかりと弁護士へ相談をしたうえでしかるべき対応を取ってもらうべきでしょう。
アリバイ証明でよくある質問
アリバイ証明でよくある質問を紹介します。
Q.ネットの接続履歴はアリバイ証明になりますか?
A.ネットの接続履歴もアリバイ証明になる可能性はあります。
ネットの接続履歴は、「自分がその環境下でネット回線に接続していたこと」を証明できれば、アリバイの証明になり得ます。たとえば、「自宅のWi-Fiに繋がっていた記録」のみでは、アリバイとして証明はできません。
なぜなら、自宅でYouTubeを流しながら犯行を行った可能性も否定できないためです。また、犯行時刻に検索履歴等が残っていたとしても、あなたが使用した証拠にはなりません。友人や家族が利用したことも否定できないためです。
上記のことから、ネット回線に接続した記録があり、尚且つ自分自身が利用していたことを証明できれば、アリバイ証明になり得るでしょう。
Q.アリバイを証明できれば犯罪の疑いをかけられることはありませんか?
A.「アリバイを証明できた=犯行は不可能である」と考えられるため、犯罪の疑いは晴れるでしょう。
アリバイを証明できた場合は、物理的に犯罪を犯すことができなかったという事実を証明していることになります。この場合、当然ながら犯罪の疑いは晴れます。しかし、あなたが用意したアリバイが崩れてしまった場合は、改めて疑われてしまう可能性もあるため要注意です。
たとえば、自宅近くのコンビニにあなたの姿が映っており、その事実がアリバイ証明になったとしましょう。しかし、実際はコンビニカメラの時間がずれており、アリバイの証明としてカメラの映像を利用できなかった場合です。この場合は、新たなアリバイ証明を提出できなければ、改めて犯罪の疑いをかけられることもあるでしょう。
Q.アリバイ証明会社とは何ですか?
A.個人のアリバイを証明するために使用されることがある会社です。
アリバイ証明会社は、個人の給与明細書や源泉徴収票を作成したり在籍確認を請け負ったりして個人のアリバイ証明をする会社です。犯罪等のアリバイ証明に利用できる会社ではありません。
また、アリバイ証明会社の存在自体に違法性はないものの、利用方法次第では違法となるため注意が必要です。たとえば、家族間での利用であれば問題はないものの、何らかの契約や犯罪のアリバイ証明に利用したような場合は、違法性が問われます。
まとめ
今回は、アリバイ証明について解説しました。
犯罪の疑いをかけられた場合、アリバイを証明することができれば「自分はやっていない」という事実の証明になります。しかし、アリバイの証明はなかなか難しく、そう簡単にできないものです。
アリバイを証明できなかったからといって、直ちに犯罪の疑いをかけられたり逮捕・勾留されたりするケースは少ないものの、可能性としてはあり得ます。そのため、万が一、逮捕されたり任意聴取を受けたりした場合は、必ず弁護士へ相談をしましょう。
そのうえで今回解説した方法にしたがって対応するように心がけてください。