結婚詐欺とは、「結婚」をエサにして相手を騙して金銭等を詐取する行為を指します。刑法上の「詐欺罪」が成立し、10年以下の懲役に処されるほどの重罪です。今回は、結婚詐欺の成立要件や成立した場合の刑罰の程度等について詳しく解説します。
結婚詐欺被害に合っているのではないか?と自分を疑っている人向けにも解説していますので、本記事をぜひ参考にしてください。
結婚詐欺とは
結婚詐欺とは、結婚をエサにした詐欺行為であり、刑法上の罪状は「詐欺罪」が成立します。まずは、結婚詐欺とはどう言った行為を指すのかについて詳しく解説します。
結婚をエサに詐欺行為を行うこと
結婚をする気がないにも関わらず、その気があるように見せかけて男性もしくは女性を騙し、金銭を詐取すると結婚詐欺が成立します。
刑法上「結婚詐欺罪」という罪状はなく、刑法第246条に定められている「詐欺罪」もしくは未遂で終わった場合は「詐欺未遂罪」が成立します。
通常、結婚は男女の自由恋愛によって成立する法律上の定義です。結婚をすることによってさまざまな法的効力が及ぶため、「法律的な結婚」にこだわる男性や女性は多くいます。
また、結婚をすることによって戸籍上の家族になれることから、「好きな人と結婚をしたい」と考えるのは当然です。この「結婚をしたい」という思いにつけ込み、詐欺行為を行うと結婚詐欺罪が成立します。
結婚詐欺の定義は「結婚を匂わす」「金銭を詐取」すること
結婚詐欺罪という罪状はなく、あくまでも「詐欺罪」という罪状によって処罰されます。詐欺罪が成立するためには、以下の要件を満たしている必要があります。
- 欺罔(きもう)(相手を騙そうとする行為)
- 錯誤(相手が騙されること)
- 交付(財産等の交付があること)
- 財産移転(財産が移転していること)
上記4つの要件を満たしている場合は、詐欺罪が成立します。たとえば、結婚詐欺のよくある例として、「マッチングアプリで知り合った男性に対し、結婚を匂わせて金銭を詐取する行為」があります。
上記例で見ると、「結婚をする気がないにも関わらず、結婚を匂わせて」の時点で欺罔行為が成立します。そして、相手方は「この人と結婚をできるかもしれない」と考えている時点で、錯誤していると見なされます。
上記2つの要件を満たしている状態で、たとえば女性側が「あなたと結婚をしたいけど、借金があって……」と男性に持ち掛けたとしましょう。男性は「お金を支払えば好きな女性と結婚できる」このように錯誤します。
そして実際に金銭を支払った場合、交付および財産移転が認められ、詐欺罪が成立する仕組みです。
ただ、詐欺罪が成立するためには、必ず「欺罔行為」がなければいけません。欺罔行為は、先ほども解説したとおり「相手を騙そうとする行為」です。
つまり、「結婚をする気がないのにあるかのように見せる行為」が該当します。よって、たとえば本当に結婚をしたいと考えているが、何らかのお金が必要であり、男性側に相談をした場合は成立しません。
結婚詐欺で問われる犯罪
結婚詐欺によって成立する犯罪は刑法上に定められている「詐欺罪」もしくは「詐欺未遂罪」です。次に、結婚詐欺で問われる可能性のある犯罪について、詳しく解説していこうと思います。
結婚詐欺=詐欺罪が成立
結婚詐欺は、詐欺罪という犯罪が成立します。刑法では、詐欺罪について以下のとおり明記しています。
(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。引用元:刑法|第246条
上記のとおり、結婚詐欺は詐欺罪によって最大で10年以下の懲役に処される重罪です。とくに、悪質性が高い場合や被害額が高額である場合は、実刑判決が下される可能性が高い犯罪であるため注意しましょう。
実刑判決とは、執行猶予の付かない判決のことを指します。執行猶予とは「直ちに刑の執行をしないこと」です。たとえば、「懲役3年執行猶予2年」の場合、懲役3年という刑罰を直ちに執行せずに2年間猶予します。猶予期間中に罰金刑以上の刑罰が確定しなければ、懲役3年という刑罰が執行されることはありません。これを「執行猶予付き判決」と言います。一方で、判決確定後に直ちに刑が執行されることを「実刑判決」と呼びます。
未遂の場合は詐欺未遂罪が成立
詐欺罪は、未遂罪も罰せられます。刑法では、以下のとおり明記されています。
(未遂罪)
第二百五十条 この章の罪の未遂は、罰する。引用元:刑法|第250条
つまり、結婚詐欺を仕掛けて未遂で終わってしまった場合であっても、実行した場合は詐欺未遂罪が成立します。仮に未遂で終了した場合であっても、詐欺罪同様に10年以下の懲役に処されます。
結婚詐欺で逮捕される可能性
結婚詐欺を行った場合、詐欺罪という犯罪が成立します。このため、当然ながら逮捕されてしまう可能性があります。また、未遂で終わった場合も逮捕される可能性があるため要注意です。
次に、結婚詐欺で逮捕される可能性や結婚詐欺時の逮捕の傾向について詳しく解説します。
詐欺罪・詐欺未遂罪で逮捕の可能性がある
詐欺罪もしくは詐欺未遂罪で逮捕される可能性はあります。逮捕とは、「罪を犯した疑いがある人の身柄を拘束するための手続き」です。前提として、罪を犯したからといってすべての人が逮捕されるわけではありません。
逮捕をするためには以下の条件を満たしている必要があります。
- 罪を犯したと疑うに十分足りる証拠があること
- 被疑者に逃亡・証拠隠滅の恐れがある場合
上記2つの要件を満たしている場合は逮捕できます。また、緊急逮捕という逮捕の場合、「死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯したこと」という条件が付きます。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」であるため、緊急逮捕の可能性もある重大な犯罪です。
緊急逮捕とは、逮捕状がなくても逮捕をできる手段のひとつです。たとえば、指名手配犯などすぐにでも逮捕すべき事由がある場合にその場で緊急逮捕できることです。ただし、遅滞なく逮捕状を請求しなければいけません。
また、詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」であり、重大な犯罪に分類される犯罪です。さらに、結婚詐欺の場合は相手方とのやりとり等が証拠となる可能性が高く、削除されてしまうと立証が難しくなります。
上記のことから、その他の犯罪と比較しても逮捕の可能性がとても高い、と考えておいたほうが良いでしょう。
結婚詐欺によくある手口
結婚詐欺でよくある手口、手順は以下のとおりです。
- マッチングアプリ・婚活市場に現れる
- 結婚を前提とした交際を開始する
- 嘘をついて相手に金銭を要求する
- 突然姿を消す・別れを切り出す
結婚詐欺を巧妙な手口で行われてしまうと、自分が被害者であることに気付かずに終了してしまうケースも多々あります。そのため、もし、自分が結婚詐欺に合っているのではないか?と考える場合は、これから解説する内容をぜひ参考にしてください。
マッチングアプリ・婚活市場に現れる
結婚詐欺を行う人は、初めに騙しやすい人を探すためにマッチングアプリや婚活市場に現れます。マッチングアプリのプロフィールで「結婚相手を探している」と記載をしたり、婚活市場に現れたりして相手を探します。
詐欺師はマッチングアプリや婚活市場に現れ、騙しやすい人を探します。「騙しやすい」と思われる人は以下のとおりです。
- 結婚に焦っている人
- 恋愛経験が乏しい人
- 経済的な余裕がある人
とくに、恋愛経験が乏しく結婚に焦っている人は要注意です。結婚詐欺は「結婚をしたい」と考えている人がターゲットになるため、焦っていれば焦っているほど冷静な判断ができずに騙されやすくなります。
また、恋愛経験に乏しい人は、恋愛感情を抱いてしまうと周りが見えなくなってしまう人が多いためです。
「恋は盲目」という言葉があるように、結婚詐欺師は「自分に夢中にさせられる人」を探します。さらに、経済力を見たうえでどの程度なら絞れるかを考え、相手を探します。
何度かデートを重ねて見極める人もいるため、初めのうちは結婚詐欺かどうかの判断が難しいこともあるでしょう。
結婚を前提とした交際を開始
結婚詐欺を行おうとしている人は、相手の心を操るのがとても上手です。そのため、相手に好意があるかのように見せ、相手に告白をさせたり、自分から告白をしたりします。
そうしてお付き合いをスタートさせた後、ある程度の関係を築こうとしてくることでしょう。絶妙な距離感で距離を縮め、結婚をほのめかしたり匂わせたりします。
そうして騙されている側は結婚詐欺を疑う隙もなく、だんだんと相手の虜になっていくことでしょう。
嘘をついて相手に金銭を要求する
ある程度の関係が完成してくると、相手はあなたに嘘をついて金銭を要求します。ただ、実際に「〇〇だからお金が欲しい」とは言いません。
たとえば、あなたの結婚を匂わせているところで「私の母親が病気で手術をしなければいけない。実家はお金持ちではないから、手術費用は私が負担しなければいけない。だから、あなたとの結婚は待ってほしい……」のように言います。
つまり、あなたに直接金銭を要求するのではなく、遠回しに「お金を出して欲しい」と言った雰囲気を出すのです。きっと、優しくて早く結婚をしたいと思っているあなたは「手術費用は私が出してあげますよ」と伝えることでしょう。
一度、お金を出してしまうと結婚詐欺師は「搾取できるだけ搾取しよう」そう考え、あらゆる嘘をついて金銭を詐取していきます。
もし、あなたがお金の話をされたときに「そうですか……」といってその場をやり過ごそうとした場合、詐欺師は以下いずれかの行動に出ることが考えられます。
- 他の方法であなたにお金を要求する
- あなたに別れを切り出す
ここであなたに別れを切り出された場合は、ターゲットの見極めに失敗したと思われて終了します。ただ、「他の方法ならいける」と思われた場合は、あらゆる手段を用いてあなたにお金を要求するでしょう。
たとえば「お金を貸して欲しい」「少しだけ支援してほしい」などと伝えてくることが予想されます。このとき、あなたがしっかり断ることができれば詐欺に合うことはありません。
突然姿を消す・別れを切り出す
もし、お金を詐取された場合は、搾れるだけ搾り取ります。「本当にもう無理だ」と思われた場合は、あなたに見切りを付けるでしょう。
見切りの付け方としては、「突然姿を消す」もしくは「別れを切り出す」のいずれかの方法があります。ここもあなたという人物を見極めたうえで、上手に切れる方法を模索するはずです。
たとえば、あなたが仕事人間で今の仕事に誇りを持っている場合、相手方は「私、自分の田舎に帰らなければいけなくなったの……」などと言い、物理的に結婚は難しいため別れましょう。といったニュアンスで別れを切り出します。
一方で、あなたが心配性で相手にとても好意を寄せているような場合は、何もせずにそのままフェードアウト……。という可能性も十分に考えられます。
結婚詐欺で逮捕された場合の流れ
結婚詐欺を行った場合、逮捕されてしまう可能性があります。しかし、逮捕は刑事手続きの一つでしかありません。そのため、その後、どのようなことが起こるのか、どういった流れで事件は進んでいくのか理解をしていない人も多いでしょう。
次に、逮捕された場合の流れについて詳しく解説します。
逮捕
結婚詐欺という罪を犯した場合、逮捕される可能性があります。逮捕には「通常逮捕」「緊急逮捕」「現行犯逮捕」の3種類あります。現行犯逮捕は、現行犯で逮捕できるものであるため、結婚詐欺ではあまり起こり得ない逮捕手段です。
そのため、通常逮捕もしくは緊急逮捕のいずれかの方法で逮捕が行われるでしょう。いずれの場合であっても逮捕に変わりはなく、被疑者(逮捕された人)が行うその後の手続き等に変化はありません。
逮捕をされると初めに48時間以内の身柄拘束が認められます。警察署内にある留置所という場所に入り、警察官等から取り調べを受けます。このとき、一度だけ当番弁護人という弁護人を呼ぶことができ、今後のアドバイス等を受けられるため、覚えておきましょう。
勾留請求の判断
逮捕から48時間以内に警察官は事件を検察へ送致しなければいけません。そして、送致された事件内容を確認したうえで、24時間以内に引き続き被疑者を勾留するかどうか判断します。
判断材料となる部分は、犯罪の程度や証拠隠滅・逃亡の恐れがあるかどうかです。検察官が「勾留の必要がある」と判断した場合は、勾留請求が認められてさらに10日間の身柄拘束が行われます。
実務上は、勾留延長が認められるケースが多いため合計20日間の勾留延長が認められることになるでしょう。逮捕後の勾留を合わせると合計23日間の身柄拘束が認められます。
勾留が認められた場合、国選弁護人を付けることができます。日本の司法では、私選弁護人が原則です。しかし、経済的な事情等から私選弁護人の選任が難しい場合は、国選弁護人が選任されます。
起訴・不起訴の判断
身柄事件(勾留されている事件)の場合は、勾留期間中に被疑者を起訴するか不起訴とするかを判断します。「起訴」とは、刑事裁判にかけることを言います。検察官が起訴をすると呼び名が被疑者から被告人へ変わり、収容される施設も留置所から拘置所へ変わります。
詐欺事件の場合、詐欺の疑いがない(誤認逮捕)場合を除いてほぼ確実に起訴されると思っておいたほうが良いです。軽微な犯罪であれば、不起訴処分の可能性もありますが、詐欺罪は重罪であるためその可能性はとても低いです。
起訴をされると刑事裁判を受けることになるため、裁判の日程が決まるまでは原則拘置所内で生活をします。起訴後は、基本的に取り調べを受けることはありませんが、任意で取り調べに応じることは可能です。
起訴後は原則拘置所に移送されて生活をします。未決勾留者(刑罰が確定していない人)であるため、労働義務(労役)等もありません。また、保釈請求が認められれば、社会へ一時的に戻ることも可能です。
刑事裁判
起訴された者は、全員刑事裁判を受けます。刑事裁判では、あなたの犯した罪に対して審理を行い、有罪か無罪かを判断します。有罪の場合は、どの程度の刑罰が適切かを考え、最終的に「判決」として言い渡す流れです。
刑罰に従って刑に服する
刑罰が確定すると、あなたはその刑罰に従って刑に服します。詐欺罪は「10年以下の懲役」であるため、この範囲内で何らかの刑罰が下されることになるでしょう。執行猶予付きの判決が下されなかった場合は、実刑判決となり一定期間刑務所へ収容されることになります。
詐欺罪の判決傾向として、初犯であっても実刑判決が下される可能性は高いです。とくに悪質性が高い事件や被害額が大きい事件の場合は、長期間の懲役刑が確定するため注意しましょう。
結婚詐欺でよくある質問
結婚詐欺でよくある質問を紹介します。
Q.結婚する気があってお金を借り、その後に別れることになった場合は結婚詐欺ですか?
A.安心してください。結婚詐欺には該当しません。
結婚詐欺は詐欺罪であり、本記事冒頭でも解説したとおり「欺罔・錯誤・交付・財産移転」の4項目が成立しなければ、罪に問われません。そのため、当初は結婚するつもりがあり、実際に何らかの事情があってお金を借りた場合は罪に問われません。
ただし、嘘をついてお金を借りていたような場合は、詐欺罪(結婚詐欺ではない)に該当する恐れもあるため注意が必要です。
また、借りたお金があるのであれば、しっかり返済することをおすすめします。後からのトラブルを回避するためにも、こちら側から「返済する意思があります」という姿勢を見せることが大切です。
Q.ガールズバーやキャバクラで働いている女性が男性から「結婚詐欺だ!」と言われた場合はどう対処すれば良いですか?
A.実際に詐欺行為がないのであれば、詐欺罪は成立しないため安心してください。
たとえば、お店でしか会ったことがないお客さんであり、そのお客さんが自分の意思で「あなたと結婚したい」と考えたとしましょう。そして、結婚をするためにお店で大金を使っていた場合、結婚詐欺には該当しません。
お客さん側が自分の意思で「結婚をしたい」と考えただけであり、一方的な意見で自分の意思でお金を使っているためです。
一方で、あなたが結婚を匂わせるような好意を行い、相手を騙してお金を受け取っていた場合は詐欺罪になり得ます。たとえば、お店で知り合ったお客さんとプライベートでも会い、結婚を匂わせて金銭を要求したような場合です。
キャバクラやガールズバーは、色恋営業と呼ばれる営業方法も行われることがあります。そういった営業を行う際は、お客さんを勘違いさせないように絶妙に操る技術を身に付けたほうが良いでしょう。
Q.結婚詐欺を理由に金銭を要求されています。どうすれば良いですか?
A.事実があるかどうかが争点になります。
実際に結婚詐欺となり得る事情があり、あなた自身も認めているのであれば、詐取した金銭を返還するべきでしょう。
ただ、一方的に相手方の勘違いで「結婚詐欺だ!」と言われているのであれば、応じる必要はありません。むしろ、相手に対して恐喝罪を主張できる可能性もあります。個別事由によって判断は分かれるため、弁護士に相談をしたほうが良いでしょう。
Q.元々結婚まで考えていなかった相手が勝手にお金を渡してきました。結婚詐欺になりますか?
A.結婚詐欺に該当する可能性は低いと考えますが、注意をしたほうが良いです。
詐欺罪は「欺罔・錯誤・交付・財産移転」があって成立する犯罪です。そのため、あなたが欺罔行為を行っていないのであれば、詐欺罪が成立する可能性は低いと考えます。
ただ、後にトラブルとなる可能性があるため、金銭のやり取りは避けたほうが良いでしょう。
まとめ
今回は、結婚詐欺について解説しました。
結婚詐欺は、結婚をエサに詐欺を行った場合に成立する犯罪であり、刑法上の詐欺罪が成立します。詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」であり、重罪です。万が一、罪を犯した場合は初犯であっても実刑判決が下される可能性が高いです。
また、詐欺に合ってしまうと渡したお金が返ってくることはほとんどありません。そのため、結婚詐欺に合わないための対策も必要です。今回解説した内容を踏まえ、結婚詐欺には十分注意してください。