「逮捕」はある日突然やってきます。もちろん、何らかの罪を犯しているために、警察官が現れてあなたを逮捕します。
しかし、どれだけ覚悟をしていたとしても突然逮捕をされてしまえば「今後どうなるのだろう」「自分はどうすれば良いのだろう」など、さまざまな不安を感じることでしょう。当番弁護人は、逮捕されてしまった人の権利を守るための制度であり、本制度を利用することによって不安を解消したり取り調べに応じる姿勢に反映させたりできます。
そこで今回は、当番弁護人制度の概要や呼び方について詳しく解説します。自分もしくは身内が逮捕されて不安を感じている人は、ぜひ参考にしてください。
当番弁護人制度の概要
当番弁護人制度とは、逮捕された被疑者が一度だけ呼ぶことのできる弁護人制度です。まずは、当番弁護人制度とはどういった制度なのか?について、詳しく解説します。
逮捕された人が一度だけ弁護人を呼べる制度
当番弁護人は、逮捕された人が一度だけ弁護人を呼べる制度です。弁護人とは、弁護士のことを指しますが、刑法上は「弁護人」と呼びます。そのため、制度の名前も「当番弁護人制度」となります。
当番弁護人は、逮捕をされた人が一度だけ無料で呼べる制度であり、主に今後の流れや弁護人制度について説明やアドバイスを受けられる制度です。継続的な弁護活動を目的としている制度ではない点に注意が必要です。
当番弁護人を呼ぶためには「逮捕されていること」が条件になります。通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕のいずれかの方法で「逮捕」されていなければいけません。逮捕をされると、警察署内にある留置所等にて身柄を拘束されます。
中には「罪を犯した人=必ず逮捕される」と勘違いをしている人もいますが、これは間違いです。犯罪の内容や被疑者の態様、逃亡や証拠隠滅の恐れなどを総合的に判断したうえで、逮捕するかどうかを判断します。
逮捕せずに捜査を行うことを「在宅事件」と呼び、逮捕をして捜査を行うことを「身柄事件」と呼びます。つまり、在宅事件の場合は、逮捕されていないため当番弁護人制度を利用することができません。
ただし、在宅事件の場合であってもその後に「必要である」と判断された場合は、逮捕されることがあります。この場合は、身柄事件に切り替わるため、当番弁護人制度を利用できます。
弁護人から今後の流れや弁護人制度について説明を受けられる
「弁護人=弁護活動を行ってくれる人」と考えている人は多いでしょう。実際、刑事事件における弁護人は、弁護活動を行ってくれる自分の味方、という認識で間違いありません。
しかし、当番弁護人制度については、あくまでも今後の流れやアドバイス、弁護人制度についての説明を受けられるための制度にすぎません。
一般的に見ると刑事事件に巻き込まれてしまうケースは稀であり、弁護士を頼る機会は滅多にありません。そのため、「今後、どのようになるのだろうか」といった不安を抱えている人は多いです。
そういった不安や疑問を解消するために当番弁護人制度がある、と考えておけば良いです。たとえば、今後の弁護人制度や取り調べへ向けたアドバイスなどを受けられます。
刑事事件においては、私選弁護人制度や国選弁護人制度、刑事被疑者弁護救助制度など、さまざまな制度があります。これらの制度を説明したうえで、希望があれば当番弁護人をそのまま私選弁護人等に選任可能です。
被疑者が今後、安心をして刑事事件に対応していけるようにできる制度であるため安心してください。
なお、何度もお伝えしている通り、当番弁護人制度は「逮捕後に1度だけ呼べる制度」です。一度では弁護活動を行うことはできないため、その点は注意しましょう。
起訴前の被疑者の権利を守るための制度
当番弁護人制度は、「起訴される前の被疑者を守るための制度である」と考えれば良いでしょう。たとえ罪を犯した人であっても、有罪判決が確定するまでは、推定無罪(無罪の推定)が原則です。
推定無罪とは、有罪判決が確定するまでは「罪を犯していない人」として扱われなければいけない、という原則です。
当番弁護人制度は「逮捕されたあと」に利用できる制度であり、「逮捕をされる=身柄が拘束される」ことを考えれば矛盾に感じるかもしれません。しかし、逮捕等は刑事訴訟法という法律によって定められている事実であり、矛盾ではないと考えるのが一般的です。
とはいえ、推定無罪により「罪を犯していない人と同等」の扱いを受ける権利があります。当番弁護人は、自分(被疑者)を守るための制度であることを考えれば、この推定無罪に従っていると考えられます。
弁護人は、たとえあなたが罪を犯していたとしても、味方となってくれる人です。刑事裁判になれば検察官から責められ、被害者や被害者遺族からも厳しく責められることでしょう。
それでも、「あなたを唯一守ってくれる人」となります。そのため、さまざまな視点から見ても当番弁護人制度は被疑者の権利を守るための制度であり、被疑者本人を守るための制度であると言えます。
当番弁護士の呼び方
当番弁護人を呼ぶ方法はとても簡単です。警察官等に「当番弁護人を呼んでほしい」と伝えるだけで良いです。その後、当番弁護人が駆けつけてくれてアドバイスをしてくれる流れです。
次に、当番弁護人の呼び方やいつ頃駆けつけてくれるのか?について、詳しく解説します。
当番弁護士は警察官等に「当番弁護人を呼んでほしい」と伝えるだけ
当番弁護人を呼ぶためには、依頼をしなければいけません。依頼方法は、警察官等に「当番弁護人を呼んでください」と伝えるだけです。「警察官等」としているのは、事情により検察官や裁判官のほうが早いケースもあるためです。
タイミング的なものであり、必ずしも警察官である必要はありません。その場にいる人が検察官であれば検察官でも良いですし、裁判官であれば裁判官でも良いです。ただ「当番弁護人を呼んでください」と伝えるだけで良いです。
当番弁護人制度については、警察官や検察官、あるいは裁判官から「こう入った制度があるため、利用しますか?」と尋ねられる場合もあります。この場合、「はい」と答えれば当番弁護人に依頼が入る仕組みです。
24時間365日いつでも担当弁護士に連絡が入る仕組み
当番弁護人を依頼すると、依頼を受けた人は直ちに弁護人へ連絡を入れます。当番弁護人の弁護人は、当番制となっており、その日に連絡をする人が弁護士会によって決められています。
逮捕は24時間365日、休みなく行えます。もちろん、犯罪に休日はありません。このことから、当番弁護人へは24時間365日いつでも連絡が入るようになっています。
ただし、すべての弁護人が連絡が入ってすぐに駆けつけてくれるとは限りません。とくに夜間や休日等の場合は、連絡をしてから駆けつけてくれるのが翌日以降となるケースもあるため注意してください。
当番弁護人を呼べる人
当番弁護人を呼べる人は、以下のとおり限定されています。
- 逮捕された本人
- 逮捕された人の家族
- 逮捕された人の友人・恋人
次に、当番弁護人を呼べる人について詳しく解説します。
逮捕された本人
逮捕された本人は、警察官等に「当番弁護人を呼んでほしい」と伝えることで当番弁護人を呼ぶことができます。当番弁護人は、逮捕された本人を守るための権利、制度であるため積極的に利用しましょう。
なお、逮捕された本人に当番弁護人の知識がなくても、警察官等から説明を受けられる可能性もあるため、その際に呼ぶようにしましょう。
逮捕された人の家族
逮捕された人の家族も当番弁護人を呼ぶことができます。家族とは、自分の親兄弟の他、親戚等でも構いません。誰かが「当番弁護人」という制度を知っている場合は、呼んであげると良いでしょう。
ただし、当番弁護人制度は逮捕後に1度しか呼ぶことのできない制度です。そのため、本人やその他の人が呼んでいる場合は、呼ぶことはできません。
そして、家族が当番弁護人を呼ぶ方法は、逮捕されている警察署がわかる場合は、警察署を管轄する弁護士会に連絡をして「〇〇警察署に逮捕されている〇〇(逮捕された人)に当番弁護人を付けてください」と伝えれば良いです。
逮捕された人の友人・恋人
当番弁護人を呼べる人に原則制限はありません。そのため、友人や恋人など、逮捕された事実を知った周りの人が呼んであげる方法もあります。
呼び方は、家族と同様で警察署を管轄する弁護士会に連絡をして「〇〇警察署に逮捕されている〇〇(逮捕された人)に当番弁護人を付けてください」と伝えれば良いです。
友人の場合は、逮捕される原因となった場所にいるケースも多いです。そのため、逮捕されて連れて行かれたところを見た場合は、直ちに弁護士会へ相談してあげると良いでしょう。
当番弁護人を呼ぶ際の注意事項
当番弁護人を呼ぶ際は、以下のことに注意してください。
- 逮捕された後しか呼べない
- 当番弁護人を呼べるのは一度だけ
- 当番弁護人を自分で選ぶことはできない
- 継続的な弁護活動を行うわけではない
それぞれの注意事項について詳しく解説します。
逮捕されたあとしか呼べない
当番弁護人制度は、逮捕をされた被疑者しか呼ぶことのできない制度です。罪を犯したからといって、必ずしもすべての人が逮捕されるわけではありません。逮捕せずに捜査することを「在宅捜査」と言いますが、在宅捜査の場合は当番弁護人を呼ぶことはできないため注意してください。
ただし、在宅事件の場合であっても私選弁護人を選任することは可能です。私選弁護人は実費となる点に注意は必要ですが、適切な弁護活動を行ってくれます。
また、起訴された場合は、私選弁護人を付けていなくても国選弁護人を付けられます。国選弁護人は、費用が発生しないため一度弁護人へ相談をしてみると良いでしょう。
当番弁護人を呼べるのは一度だけ
当番弁護人を呼べるのは、逮捕後に1度だけという制限があります。そのため、万が一家族や友人、本人など複数人で同時に呼んだ場合であっても、1人しか来ません。
また、何度も呼べる制度ではないため、聞きたいことがある場合は頭の中で整理しておくようにしましょう。
当番弁護人を自分で選ぶことはできない
当番弁護人は、自分で選ぶことはできません。基本的に、毎日当番として定められている弁護士の中から選ばれ、駆けつけてくれます。
そのため、中には相性の合わない弁護士にあたってしまう可能性もあるため注意しなければいけません。また、すべての弁護人が刑事事件に精通しているわけではありません。
今後の流れについて淡々と説明をする弁護人もいれば、あなたのためにできるアドバイスなどを積極的に行う弁護人もいます。当たり外れがある場合もあるため注意しましょう。
継続的な弁護活動を行うわけではない
当番弁護人制度は、何度もお伝えしているとおり「一度だけ呼べる制度」です。そのため、継続的な弁護活動に期待はできません。ただし、当番弁護人としてきてくれた弁護人をそのまま私選弁護人として選任することは可能です。
この場合、一度だけではなく継続的に弁護活動を行ってくれるため、さまざまなアドバイスを受けられたり、勾留を回避したりできる可能性が高まります。ただし、私選弁護人として選任する場合は、実費となるため注意しましょう。
当番弁護人後の弁護人制度
当番弁護人制度は、何度もお伝えしているとおり「逮捕後に一度だけ呼べる制度」です。そのため、1回当番弁護人を呼んでしまった人、あるいは在宅事件として捜査が行われている人は、当番弁護人制度を利用できません。
そこで、当番弁護人後に利用できる弁護人制度、誰でも利用できる弁護人制度についても詳しく解説します。
国選弁護人の選任
国選弁護人はその名の通り「国で選ばれる弁護人制度」です。国選弁護人制度は、経済的な事情から弁護人を付けることが難しい被疑者に対して、無料で弁護人を付けられる制度です。
国選弁護人が付くタイミングは、勾留確定後もしくは起訴後のいずれかです。勾留確定後とは、逮捕をされた被疑者は引き続き身柄を拘束するかどうかを判断します。検察官や裁判官が「勾留の必要がある」と判断した場合は、引き続き身柄を拘束されます。これが勾留です。
勾留された被疑者のうち、私選弁護人を付けられる経済力がないなど一定の要件を満たしている人に限っては、国選弁護人が選任されます。
また、身柄の拘束を行わずに捜査が行われている場合、「在宅事件」として扱われます。在宅事件の場合であっても、身柄拘束が発生しないだけであって、起訴されたり有罪判決を受けたりする可能性があるため注意しなければいけません。
在宅事件の場合は、起訴された後に経済的な事情等で私選弁護人を選任できない人に対して、国選弁護人を付けられる仕組みです。
国選弁護人は自分で選ぶことができない、選任されるタイミングが遅い、といったデメリットがあります。しかし、自分で弁護士費用を負担する必要がないため、経済的な理由で弁護人をつけられない人でも安心です。
すべての被疑者が弁護人という自分の味方を付けられるようにしている制度であるため、当番弁護人からもよく説明を聞き、積極的に利用しましょう。
私選弁護人の選任
私選弁護人とは、「私で選ぶ弁護人」です。つまり、被疑者や被疑者の家族等が被疑者に対して付けることのできる弁護人です。私選弁護人は、費用を自分で負担しなければいけません。
しかし、いつでも自分たちのタイミングで刑事弁護に強い弁護人を付けられる点がメリットです。また、相性が悪ければ自由に解任したり他の弁護人を付けたりできます。自由度が高い点もメリットであると言えるでしょう。
当番弁護人に関するよくある質問
当番弁護人制度でよくある質問を紹介します。
Q.当番弁護人をそのまま私選弁護人もしくは国選弁護人として選任は可能ですか?
A.当番弁護人として駆けつけてくれた弁護人をそのまま私選弁護人もしくは、国選弁護人に選任可能です。
「弁護士」といっても得意分野はさまざまであり「刑事弁護に強い弁護人に依頼をしたい」と考えても、探すのが難しいと思う人も少なくないでしょう。その場合、当番弁護人経由で私選弁護人等を選任しても良いでしょう。
当番弁護人は、基本的には刑事弁護に慣れている弁護人が選ばれます。そのため、そのまま私選弁護人として依頼をしても良いです。本人から依頼をしても良いですし、家族もしくは友人から直接依頼をしても構いません。
また、当番弁護人が駆けつけた時点で、私選弁護人や国選弁護人についての説明も受けられるため、そのうえで判断をしましょう。
なお、当番弁護人を国選弁護人として選任するためには、手続きが少しややこしくなります。なぜなら、国選弁護人は原則選ぶことはできないためです。
当番弁護人をそのまま国選弁護人として依頼するためには、初めに刑事被疑者弁護援助制度を利用して私選弁護人として選任する必要があります。刑事被疑者弁護援助制度は、経済的な事情から私選弁護人を付けることができない人などを対象に、弁護士費用を立て替える制度です。
そして、勾留確定後に国選弁護人になってもらうように依頼しましょう。刑事被疑者弁護援助制度は、あくまでも立て替えであるため、費用が発生する点に注意が必要です。ただし、分割や免除といったことも可能であるため当番弁護人に相談をしてください。
Q.当番弁護人を呼んだ場合、最短でいつ頃来てくれますか?
A.当番弁護人は、その制度上可能な限り早めにきてくれることになっています。
当番弁護人の依頼をした場合、初めに警察署のある弁護士会に連絡が入ります。弁護士会では、その日ごとに当番弁護人が定められており、その中から対応可能な弁護人が呼ばれて駆けつける仕組みです。
当番弁護人は、「逮捕後」に呼べる制度であり、今後の取り調べに対するアドバイスが受けられるため、逮捕された本人としては早めにきて欲しいと考えるのが通常です。また、実際に弁護人も早く駆けつける努力はするでしょう。
上記のことから、弁護士事務所が近いなどの事情がある場合は数時間以内に来てくれる可能性が高いと考えて良いです。実際、依頼が入る際も「できるだけその日中に行くように」と言われます。
ただし、休日や夜間の場合は直ちに対応できる弁護人が少ないことから、翌日になってしまうこともあるため注意しなければいけません。遅くても「原則24時間以内」という決まりはあるものの、逮捕された本人からすると「遅い」と感じてしまうことがあるかもしれません。
Q.当番弁護人を呼ぶための条件はありますか?
A.当番弁護人は原則誰でも利用できる制度ですが、以下の条件を満たしている必要があります。
【当番弁護人の条件】
- 逮捕されている事件
- 起訴されていないこと
- 同じ事件で当番弁護人を呼んでいないこと
まず、当番弁護人は「逮捕されたあとに1度だけ呼べる制度」であるため、逮捕をされていなかったり、一度呼んだりしている場合は利用できません。また、起訴された場合は国選弁護人が付くため、利用できないということです。
他に条件はなく、重大な事件・軽微な事件に関係なく、また、少年であっても利用ができる制度であるため積極的に利用してください。
まとめ
今回は、当番弁護人の呼び方について解説しました。
当番弁護人制度は、逮捕をされた被疑者が一度だけ呼べる制度であり、今後のアドバイスや取り調べに対するアドバイスを受けられます。
逮捕された直後はさまざまな不安を抱えていることでしょう。そこに、あなたの味方として弁護人がついてくれます。そのため、さまざまな不安を解消できることでしょう。
一度だけという制限はあるものの、今後の不安等がある場合は積極的に質問をして解消しておけます。もちろん、そのまま私選弁護人として選任をすることもできます。刑事被疑者弁護援助制度を利用することでお金の不安も解消できるでしょう。
もし、自分が逮捕された、身内が逮捕されたなどお悩みを抱えている人は本記事を参考にしてください。