公判前整理手続き(こうはんぜんせいりてつずき)とは、刑事裁判(公判)を行う前に争点等を整理するために行われる手続きです。この記事では、公判前整理手続きとは何か?メリットは何か?について詳しく解説しています。
公判前整理手続きは、被告人も参加できる制度です。被告人が参加するメリットについても解説していますので、本記事をぜひ参考にしてください。
目次
公判前整理手続きとは
公判前整理手続きとは、裁判を事件の争点や証拠を確認するために行われる手続きです。裁判を迅速かつ適正に行うための手続きであり、2005年に始まった比較的新しく導入された手続きのことです。まずは、公判前整理手続きとは何か?について、詳しく解説します。
事件の争点・証拠を確認
公判前整理手続きとは、刑事裁判において争点や証拠を確認するための手続きです。現在の刑事裁判は、一定の条件のもとで裁判員裁判が行われています。
裁判員裁判とは、国民の中から選ばれた「裁判員」と呼ばれる人たちが裁判に参加する制度です。裁判員裁判は、国民の感覚を裁判に反映させるために導入された制度です。
裁判員裁判は、国民が裁判員として参加する制度であるため、裁判をスムーズに進める必要があります。そのため、裁判が開かれるに先立って事件の争点や証拠を確認するのが「公判前整理手続き」です。
公判前整理手続きでは、裁判官、弁護士、検察官の三者が参加します。裁判官が弁護士や検察官双方の言い分を聞き、争いがあるかどうかなどについて確認することを目的にしています。
裁判を迅速かつ適正に行うための手続き
裁判員の多くは何らかの色を持っている人が大半です。裁判員に選ばれた場合は「義務」であるため、原則断ることはできません。
とはいえ、裁判は平日に行われるため、裁判員に選ばれた人は仕事を休んで参加しなければいけません。そのため、迅速かつ適正に刑事裁判を行うために、公判前整理手続きという手続きが必要となります。
公判前整理手続きは2005年に開始された比較的新しい制度です。公判前整理手続きが開始される前までは、裁判員裁判の対象となるような大きな刑事裁判において、半年〜数年程度の期間を要するケースが多くありました。
また、公判回数も多くなっていたため、裁判員にかける負担が大きくなることが予想されていました。そのため、公判整理手続きという制度を導入し、迅速かつ適正に裁判を行うことを目指しています。
なお、公判前整理手続きが導入されて以降、裁判期間の短縮、公判回数の短縮が顕著に表れています。
公判前整理手続きが行われる事件
公判前整理手続きは、すべての事件において行われるわけではありません。主に、以下の事件に該当する場合に行われます。
- 被害者もしくは被告人が複数人いる複雑な事件
- すべての裁判員裁判
- 否認事件
次に、公判前整理手続きが行われる主な事件について解説します。
被害者もしくは被告人が複数いる場合で複雑な事件の場合
被害者もしくは被告人が複数いる事件の場合は、事件が複雑化するケースが多いです。複雑な事件の場合は、証拠調べ等に時間がかかってしまう可能性が高いため、公判前整理手続きを行うのが通常です。
たとえば、同じ事件で被告人(起訴された人)が複数いる場合は、それぞれの言い分を聞き、裏付けをとる必要があります。全員が正直に話しているケースは必ずしも多いとはいえません。
もし、複数の被告人が全く異なる主張をしていれば、どの言い分が適切なのかを調べる必要があります。そのうえで、公判で証拠を提出していく必要があるのです。
たとえば、A・B・Cの3人の被告人がいたとしましょう。Aは「BとCがやって、私は見ていただけです」と言っていたとしましょう。一方で、Bは「Aがやった。私も少し手を加えたが、Aほどではない」、Cは「A・B・C3人でやりました」と言っていたとします。
上記のようにそれぞれの言い分が異なる場合は、事件が非常に複雑化しやすいです。このような状況で裁判を始めてもただ長引くだけです。そのため、公判前整理手続きによって争点等を初めに整理しておく必要があるのです。
すべての裁判員裁判
すべての裁判員裁判で公判前整理手続きが行われます。裁判員裁判では、一般の人が裁判員として裁判に参加します。一般の人は、仕事をしたり家のことをしたりしなければいけず、時間を割くことが難しい人がほとんどです。
とはいえ、裁判員裁判は国民の「義務」であるため、原則拒否することができません。とはいえ、いつまでも何度も何度も公判を行っていると、裁判員の日常生活にも影響を与える可能性があります。
上記のことから、すべての裁判員裁判では公判前整理手続きを行って、スムーズに裁判を進められるようにしています。
否認事件
否認事件の場合、弁護士と検察で対立関係にあります。弁護側は「無罪」を主張します。一方で、検察は証拠を固めて「有罪」であることを主張します。
この対立によって、お互いにさまざまな証拠を集めなければいけません。結果的に、裁判が長期化する可能性が高まります。このことから、否認事件の場合も基本的には、公判前整理手続きが行われるのです。
公判前整理手続きを行う理由
公判前整理手続きを行う主な理由は、以下のとおりです。
- 裁判員裁判の開始に伴い始まった
- 裁判を迅速に行うために開始された
次に、公判前整理手続きを行う理由について詳しく解説します。
裁判員裁判の開始に伴って始まった
公判前整理手続きは、裁判員裁判の開始に伴って始まった制度です。裁判員裁判は、国民の意見を裁判に反映させる目的で、2009年にスタートしました。
一般人の中から選ばれた人が裁判員として裁判に参加します。複数回の公判で検察や弁護人の意見を聞き、有罪か無罪かを判断し、有罪である場合はどの程度の量刑を科すかについて議論して決定します。
刑事裁判は、複数回の公判が行われます。裁判員裁判は、平日に行われるため、裁判員に選ばれた人は仕事をお休みするなどして参加しなければいけません。何度も何度もお休みをすることによって、仕事上での弊害が発生する可能性もあります。
そのため、少しでもスムーズに裁判を進行する目的から、公判前整理手続きが始まりました。
裁判を迅速に行うために開始された
刑事裁判は内容によっては長期化するケースもあります。一般的な裁判でも数カ月、長い場合は数年〜十数年にもわたるケースが多くありました。
検察や弁護人、裁判官は刑事裁判も仕事のひとつではあるものの、可能な限り迅速かつ適正に進めることが好ましいと考えられています。そのため、公判前整理手続きという方法によって、裁判の迅速化が図られています。
公判前整理手続きで整理される内容
公判前整理手続きでは、裁判前に以下のような内容を整理しておきます。
- 訴因・条罰
- 事件の争点
- 証拠について
- 被害者参加について
- 公判期日の決定や変更、進行についての必要事項
次に、公判前整理手続きで整理される内容について詳しく解説します。
訴因・条罰
初めに訴因・条罰を確認します。訴因とは、検察官が提出する起訴状に記載する内容のことを指します。訴因は、可能な限り具体的に記載しなければいけないと定められています。
たとえば、被告人は誰なのか、どのような犯罪事実があるのか、などについて明確に記載しなければいけません。
条罰とは、どのような犯罪が成立するのか?についての確認です。たとえば、「人に暴行を加えた」という犯罪事実であれば、傷害罪が成立するのか、暴行罪が成立するのか、あるいは他の犯罪が成立するのか?について確認をします。
事件の争点
次に、事件の争点について確認をします。否認事件であれば、「無罪」と「有罪」という部分で争点になります。他にも、犯した犯罪に争いはないものの、成立する犯罪の種類で争われるケースもあります。
たとえば、「殺害した」という結果は同じであっても、殺意の有無によって「傷害致死罪」「殺人罪」で争点になる可能性があるのです。また、自動車を運転して人を死亡させた場合は、「過失運転致死傷罪」なのか「危険運転致死傷罪」なのかといった争点が生まれることがあるでしょう。
上記のように、初めに事件の争点についても確認しておきます。争いの部分を知っておくことで、どのような方針で裁判を進めるか?について、大まかな方向性を把握しておけるためです。
証拠について
次に、証拠について整理します。お互いの主張に従って証拠を出し合います。また、どのような証拠が必要なのかについて整理し、公判開始前に準備を進めておきます。
証拠を事前に準備しておくことによって、何度も公判を行うことなく、必要最小限の回数で抑えられる点が大きなメリットとなるでしょう。
たとえば、公判期日の決定に伴い、「◯回目の公判期日までに〇〇の証拠を準備しておいてください」などと、事前に話を進めておけます。事前に準備を進めておけることによって、裁判期間の短縮につながります。
もし、公判前整理手続が行われていなければ、次回の公判期日を決める際に準備期間が発生することになるでしょう。結果的に、裁判期間が長期化してしまう点が大きなデメリットとなっていました。
被害者参加について
被害者の参加についても整理しておきます。刑事裁判においては、被害者や被害者遺族が希望する場合は、裁判に参加できる制度があります。これが「被害者参加制度」です。
被害者が参加を希望する場合は、精神的な負担を軽減するための配慮がなされるため、事前に被害者の参加有無についても確認されることになっているのです。
公判期日の決定や変更、進行についての必要事項
最後に、公判期日の決定や変更が必要であれば変更をします。そして、裁判の進行に伴って必要事項がある場合は、裁判官、弁護士、検察官の三者で話し合って決めていく流れとなります。
公判前整理手続きに被告人が参加するメリット
公判前整理手続きには、被告人(罪を犯して起訴された人)も参加できます。参加する・しないは、被告人の自由ですが、参加した場合は以下のようなメリットがあります。
- 検察側の主張・証拠を確認できる
- 主張関連証拠開示の請求ができる
次に、被告人が公判前整理手続きに参加するメリットについても詳しく解説します。
検察側の主張・証拠を確認できる
被告人が公判前整理手続きに参加することによって、検察側の主張や証拠を確認できる点が大きなメリットです。たとえば、否認事件であって、検察側の証拠を公判前整理手続きに知ることができれば、「検察側のあの証拠は、〇〇であり、私のものではない」などと主張することができるかもしれません。
あらかじめ証拠を知っておくことで、弁護人と前持って打ち合わせをしたり証拠能力を消滅させたりすることができる可能性もあるでしょう。
主張関連証拠開示の請求ができる
主張関連証拠開示とは、検察官が主張する内容を裏付けるための証拠の開示請求を求めることを言います。たとえば、否認している殺人事件で「〇〇の刃物で被害者を殺害した」という主張があったとしましょう。
上記の場合、犯行で使用された刃物が被告人の物であるという主張を裏付ける証拠の開示請求を行うことができます。この際、たとえば「刃物から被告人の指紋が出てきた」という証拠を提出してきたとします。
被告人自身も「その包丁は私が料理人時代に使用していて、後輩にあげたものだ」などと主張しすることができます。このことを裁判中に行おうとしても、おおよその公判期日は決められているため、上記証言を裏付けるための証拠集めに時間がかかり、結果的に不利になる恐れがあります。
しかし、公判前手続きであれば、公判が開始される前に準備を進められるため、被告人の無実を証明できるかもしれません。
上記のように、事件の当事者である被告人自身が公判前整理手続きに参加することによって、さまざまなメリットがあります。そのため、まずは弁護士へ相談をしたうえで、公判前整理手続きへの参加を検討してみてはいかがでしょうか。
公判前整理手続きの流れ
公判前整理手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。
- 公判前整理手続きの決定
- 検察官が請求証拠を開示
- 類型証拠の提示
- 請求証拠に関する意見表明
- 弁護側の主張・請求証拠の開示
- 弁護側請求証拠に関する意見表明
- 主張関連証拠の開示
次に、公判前整理手続の流れについて詳しく解説します。
公判前整理手続きの決定
初めに、公判前整理手続きの決定がなされます。公判前整理手続きの決定は、受訴した裁判所が決定します。刑事事件において、受訴される裁判所は、基本的に検察官が起訴状を提出する裁判所です。
検察官が起訴する裁判所の場所は、事件が発生した場所を管轄する裁判所であり、事件の内容によって簡易裁判所もしくは地方裁判所または高等裁判所が選択されます。
いずれかの裁判所が起訴状などを確認したうえで、公判前整理手続きを行うか否かについて決定する流れです。まずは、裁判所が起訴状などを確認したうえで、公判前整理手続を行うかどうかについて決定を下します。
検察官が請求証拠を開示
公判前整理手続きが決定後、初めに公判期日において証明すべき証拠の提示を行います。刑事事件においては、検察官等が起訴をすることによって裁判が開かれます。
そのため、まずは検察から罪となる事実や罪となる事実の証拠、起訴状などについての開示が行われると考えておけば良いでしょう。なお、請求証拠の開示には、供述調書などの証拠書類に加え、証拠となる凶器、証人等の開示が行われます。
類型証拠の提示
その後、検察官は証明する予定の証拠の裏付けをするための証拠を提示します。たとえば、殺人事件において、包丁が使用された場合は、請求証拠の開示で包丁を提出します。その後、包丁が犯行で使われたことを裏付ける証拠を開示する流れです。
いずれも「証拠の開示」と考えておけば良いでしょう。たとえば、検死の結果データなどを提示することによって、犯行に使われたと思われる包丁が実際に犯行に使用されたことを立証することとなります。
請求証拠に関する意見表明
最後に、弁護人が検察官が提出した請求証拠に対して意見表明を行います。ここまでで、検察側の証拠に対する流れは一度終了すると思っておいて良いです。
なお、裁判官は中立的な立場であることを求められるます。公判前整理手続きにおいては、弁護人と検察官の主張に対して意見を述べたり進めたりする「司会役」と考えておきましょう。
弁護側の主張・請求証拠の開示
次に、弁護側の主張や請求証拠の開示を行います。具体的には、検察側の主張(犯罪事実)を認めるのかどうかや証拠によって証明しようとする事実があるときは、それを主張します。
たとえば、否認事件である場合は「否認する」という前提のもとで、なぜなら「〇〇といった証拠があるため」といった形で証拠を開示しなければいけません。公判前整理手続き時点で証拠が揃っていなければ、「現時点で証拠は揃っていない」と言わざるを得ません。
しかし、基本的には、公判前整理手続き時点である程度の証拠等を揃えて主張や方針を決定しているのが一般的です。
弁護側請求証拠に関する意見表明
最後に、検察官が弁護人の提出した請求証拠に対して意見を述べます。これは、検察官に対して弁護人が行った意見表明と同じです。
主張関連証拠の開示
最後に、主張関連証拠の開示を行い公判前整理手続きは終了です。裁判官は、あくまでも裁判や公判前整理手続きをスムーズに進めるためにいる人であり、一連の流れの中で、何らかのことを述べたり何かをしたりすることはありません。
公判前整理手続きに関するよくある質問
公判前整理手続きに関するよくある質問を紹介します。
Q.公判前整理手続き後に発見された証拠は証拠として扱われますか?
A.当然、証拠として扱われます。
公判前整理手続き後に判明した証拠であっても、裁判中であれば提示可能です。その提示をすることによって、刑罰等が変わる可能性もあります。
また、判決後であっても証拠が発見された場合は、再度裁判を行うこともできます。これを「再審請求」と言います。たとえば、否認事件で逮捕時から一貫して否認しているにも関わらず、有罪判決が下されたとしましょう。
その後、結審して判決が言い渡された後に「無罪である証拠」が発見された場合、再審請求を行うことができます。再審請求では、再度、裁判を行って審理し、有罪無罪を判断します。最終的に無罪判決が言い渡されるケースも稀ながらあります。
なお、再審請求が認められるためには「確定判決の事実認定に誤りがある場合」に限られるため注意してください。さらに、その誤りを指摘し、証明するための証拠がなければ再審請求は原則認められません。
ハードルは高いものの、いつであっても「新たな証拠」が見つかれば、自分の身の潔白を証明できる可能性はあるため、まずは弁護人への相談を検討してください。
Q.公判前整理手続きを行う利点は何ですか?
A.裁判を迅速かつ適正に行える点が利点です。
公判前整理手続きを行うことによって、裁判を迅速かつ適正に進めることができます。先ほども解説したとおり、公判前整理手続きを行うことによって、事前に証拠等を把握することができます。結果的に、公判回数を減らすことができ、裁判期間を短縮できる点が大きなメリットです。
先ほども解説したとおり、公判前整理手続きは、裁判員裁判の導入に先立って導入された制度です。裁判員は、他の職業に付いている人が多いため、長い間休めない人が多いです。
そのため、公判前にある程度整理しておくことによって裁判期間を短縮し、裁判員にも大きなメリットとなっています。
Q.公判前整理手続きが行われる前は、いきなり裁判が開始されていたのですか?
A.裁判が行われていました。
刑事裁判における審理、判決はすべて「公判」と呼ばれます。公判前整理手続きが導入される前までは、弁護人や検察官、裁判員がそれぞれ準備をしたうえで期日を決定して、公判が行われていました。
しかし、弁護人・検察官お互いに手札を見せていない状態で公判が開始されるため、裁判が長期化するのが一般的でした。
裁判員裁判制度の導入に伴い、別に仕事を持っている一般人を裁判に参加させることが決定したため、「裁判を迅速かつ適正に進めるため」に公判前整理手続きが導入された背景があります。
まとめ
今回は、公判前手続きについて解説しました。公判前整理手続きとは、公判が開始される前に行われる整理手続きのことを指します。
裁判員裁判の導入に伴い、裁判を迅速かつ適正に進めるために導入された制度です。被告人自身が参加するメリットもあるため、もし、公判前整理手続きに興味があるようであれば、参加を希望してみてはいかがでしょうか。