- 「窃盗は初犯でも前科が付いたり実刑になったりするのか知りたい」
- 「刑罰が軽くなる方法は?」
窃盗罪で逮捕されると、たとえ初犯でも被害額や事件の性質によっては実刑になります。事件発生後の対応は重要です。たとえば示談が成立していれば、起訴を免れたり執行猶予が付いたりする可能性を残せます。こちらの記事では窃盗の初犯で逮捕された際の処分を説明しながら、逮捕後の流れや刑罰を軽くする方法についても詳しく解説します。
窃盗で逮捕されたとしても、拘留期間が短いほど社会復帰は容易になるでしょう。前科が付いてしまうと就業や資格の取得に影響を与えます。まずは置かれている状況を正確に把握してから、今後の対策を考えていきましょう。
窃盗の初犯で逮捕されたときの処分
窃盗の初犯で逮捕された場合、警察署での取り調べ後に釈放される可能性はあります。一方で長期間拘留されて、実刑判決を下されることも珍しくありません。まずは想定される処分の特徴や前科の有無から紹介していきます。
微罪処分
窃盗で微罪処分になると前科は付きません。警察の判断により身元確認後に釈放される処分で、比較的軽めの犯罪に適用されます。微罪処分になる可能性があるケースは下記をご参照ください。
- 被害額が2万円以下である
- 被害者が許している
- 犯罪事実が軽微と見なされた
刑事訴訟法では「特別な場合を除き、警察が犯罪の捜査をしたときは検察官へ事件を送致する」と定められています。微罪処分は例外に該当し、事件の捜査が警察の段階で終了するため、刑事裁判は行われません。
第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
微罪処分が下されたとしても、窃盗で捜査を受けた記録は残ります。この記録は「前歴」と呼ばれるものです。今後逮捕された際に同種の犯罪の前歴があると、不利な状況になる可能性があります。
不起訴処分と起訴猶予処分
不起訴処分もしくは起訴猶予処分が下された際も、前科は付きません。検察が起訴を見送ると判断し、刑事裁判は行われずに捜査が終了します。被疑者が身体拘束されている場合は釈放されます。
不起訴処分は、犯罪の嫌疑がなかったり立証が難しかったりする際に下される処分です。起訴猶予処分は「犯罪の嫌疑はあるものの起訴はされない」処分で、刑事訴訟法に条件が記されています。
第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
起訴処分
起訴処分になった時点で前科が付きます。起訴されると刑事裁判を受けることになり、99%以上の確率で有罪判決になるのが現状です。そもそも的確な証拠が揃い、有罪判決が得られる見込みがあるときに起訴されます。ゆえに有罪率も高くなっているのです。
参考:法務省:我が国の刑事司法について,国内外からの様々なご指摘やご疑問にお答えします。
窃盗の初犯でも起訴されることはあります。悪質な犯罪と見なされたり、被害額が多いほど起訴される確率も上がるでしょう。起訴されて有罪になった際の刑罰について、次の見出しにて解説します。
窃盗の初犯で有罪になった場合の刑罰
窃盗で有罪になった際の刑罰は、罰金刑もしくは懲役刑となり、刑法で定められています。
- 罰金刑:一定の金銭を納付する刑罰
- 懲役刑:刑事施設に収容されて、刑事施設内で所定の作業を行う刑罰
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
窃盗の刑罰は、初犯という理由のみでは軽くなりません。ただし初犯であることが考慮され、罰金刑や執行猶予つきの判決が下される可能性はあります。
まずは罰金刑の詳細を解説し、次に懲役罪についてお伝えします。
罰金刑
罰金刑は前科が付きますが、勾留されていても釈放されます。日常生活に戻ることができるため、懲役刑よりは社会復帰しやすいでしょう。罰金の相場は20万円から30万円が目安となり、実際の金額は以下の要素によって決定します。
- 初犯か、もしくは前科や前歴があるか
- 被害額の大小
- 窃盗の手口の悪質性
罰金の納付方法は、下記の2通りから選ぶことになります。
金融機関で納付する |
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検察庁で納付する |
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罰金の納付は現金払いが原則となっていて、クレジットカードによる支払いは認められません。また、原則的に一括払いを求められます。分割払いは不可能ではないものの、許可されるのは特別な事情がある場合のみです。
分割払いを希望するなら、検察庁の徴収係に申し出るか、もしくは弁護士に相談することをおすすめします。
罰金を払えない場合
罰金未納の規定が刑法にあり、まずは資産が差し押さえられ、次に身柄が拘束され強制労働となります。
資産の差し押さえ |
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労役場にて強制労働 |
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第十八条 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
労役場へ移送されるタイミングは「判決が出てから最短で30日後」です。また「本人の同意なしには執行されない」と刑法に明記されています。身柄拘束と強制労働を避けたいなら、判決確定から30日以内に罰金を納付しましょう。
第十八条五項 罰金については裁判が確定した後三十日以内、科料については裁判が確定した後十日以内は、本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない。
懲役刑
懲役刑になると前科が付き、身柄を拘束され刑務所に収容されます。窃盗罪の刑期は最大で10年です。ただし窃盗罪の初犯であれば、刑期も短くなる可能性があります。
悪質な犯罪と見なされたり、被害者の処罰意識が大きかったりするほど、懲役刑になる可能性が高まり刑期も長くなります。悪質犯罪とされる要件は、下記を参照してください。
- 窃盗の被害額が100万円以上で、被害の弁償がされていない
- 初犯だが逮捕されるまでに複数回の窃盗を繰り返した
- 住居侵入や傷害など、窃盗罪と同時に複数の犯罪も成立している
刑務所に収容されることを避けるには、執行猶予を得る必要があります。
執行猶予
執行猶予が付いても前科になりますが、ただちに刑務所へ入る必要はありません。判決が3年以下の懲役なら、執行猶予が1年から5年の間で付与される可能性があります。
刑法によると、執行猶予を得るには、下記いずれかの条件を満たさなくてはなりません。
- これまでに禁錮刑以上の判決を下されたことがない
- 禁錮以上刑の執行が終了した日、もしくは免除された日から5年以上が経過していて、その5年間に禁錮刑以上の判決を下されていない
- 禁錮刑以上で執行猶予を付与されたことがあり、かつ1年以下の懲役・禁錮の判決を下されたが、情状は酌量すべき
窃盗の初犯で執行猶予が付く条件に該当しても、認められないことはあります。情状酌量を受けたいなら、被害者への弁償は済ませておきましょう。
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
窃盗で逮捕されてから刑罰が決まるまでの流れ
逮捕されてから刑罰が決まるまでの流れを知ると、先々の行動計画が立てやすくなるでしょう。とくに身柄を拘束されている場合は、下記の経緯で釈放される可能性があるため、注視してください。
- 警察から取り調べを受けて「在宅事件」もしくは「微罪処分」となったとき
- 検察から取り調べを受けて「略式起訴」もしくは「不起訴」となったとき
- 刑事裁判の判決が「無罪」もしくは「執行猶予の付与」となったとき
それでは順を追って解説していきます。
①警察に逮捕されて取り調べを受ける
警察に逮捕されてから取り調べが終了するまでの流れは、以下の通りです。逮捕されてから勾留されるまでの72時間は、弁護士のみ面会することができます。
- 逮捕されると身柄が拘束され、警察による取り調べが開始する
- 48時間以内に「検察官に事件を送る」「微罪処分で釈放する」どちらになるか決定される
- 検察に事件が送られると、24時間以内に被疑者の身柄を拘束するか否かが決定される
- 拘留請求が裁判官に認められると、引き続き身柄は拘束される
勾留請求が認められなかった場合は、在宅事件扱いとなり釈放されます。
被害が小さいと拘留なしの在宅事件
在宅事件になると自宅で生活することが可能で、取り調べを受ける際は警察に出頭します。在宅事件になる要件は下記をご参照ください。
- 初犯で被害額が小さい
- 逃亡や証拠隠滅のおそれがない
- 被害の弁済と示談が済んでいる
窃盗の初犯で在宅事件扱いを目指すなら、刑事手続きに誠実に対応して、逃亡も証拠隠滅もない旨を主張しましょう。かつ被害の弁済も速やかに済ませるべきです。
犯罪の程度が低いと微罪処分で釈放
警察から検察に事件が送られない場合は、微罪処分となり釈放されます。極めて軽微な犯罪に適用され、拘留期間は最大で48時間です。
微罪処分は例外的な措置のため、微罪処分の対象となる犯罪は限定されています。対象の犯罪でも、微罪処分になるとは限りません。
②検察官から取り調べを受ける
勾留請求が認められると、検察官による取り調べが始まります。まずは10日間の身体拘束があり、さらに10日間の延長が可能です。したがって逮捕された日から数えて23日間の拘留が最長となります。
勾留期間が終了するまでに、起訴されるか否かが検察により判断されます。不起訴処分や起訴猶予処分なら身柄が解放され、起訴処分は拘束が継続し裁判を待たなくてはなりません。
100万円以下の罰金に相当するなら略式起訴の対象
略式起訴とは書面によっておこなわれる裁判手続で、懲役刑にはなりません。窃盗罪の罰金は100万円以下に該当します。したがって起訴されても初犯であれば、略式起訴になる可能性があります。
検察が提出した証拠のみで処分が判断されるため、被告人が主張する機会はありません。被告人が罪を認め、罰金を支払う意志があることが前提となります。略式起訴に相当する場合は拘留期間中に提案されるでしょう。
略式起訴は手続を開始してから14日以内に完了し、身柄が解放されます。罰金刑が科され、罰金の支払いによって刑が終わります。
③刑事裁判にかけられて量刑が決まる
起訴されると刑事裁判の手続きが始まります。拘留期間は2ヶ月が原則ですが、1ヶ月ごとの延長も可能です。裁判終了まで拘留が継続する可能性があります。
刑事裁判は公開法廷で行われるのが一般的です。検察と被告人の両方が証拠を提出することが可能で、裁判官によって量刑が判断されます。有罪となり執行猶予が付かなかった場合は、刑務所に入らなくてはなりません。
窃盗の初犯で処分や刑罰を軽くするポイント
窃盗の初犯で想定される処分や刑罰の概要は、下記の表をご参照ください。前科が付かないに越したことはなく、拘束期間が短いほど社会復帰も容易になるでしょう。
微罪処分 | 前科なし |
|
不起訴処分
起訴猶予処分 |
前科なし |
|
略式裁判の罰金刑 | 前科あり |
|
起訴されて罰金刑 | 前科あり |
|
起訴されて懲役刑
執行猶予あり |
前科あり |
|
起訴されて懲役刑
執行猶予なし |
前科あり |
|
まずは「不起訴処分となり前科が付かない」ことを目指しましょう。起訴された場合は「罰金刑や執行猶予によって懲役を回避する」ことが目標となります。
逮捕される前に自首をする
窃盗の初犯であれば、自首をすることで有利になります。身柄拘束の回避や不起訴処分を目指すなら、自首を検討してください。自首は減刑の事由になる旨が刑法で定められています。
第四十二条 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
ただし自首を成立させるには、下記のいずれかに該当しなくてはなりません。
- 窃盗が捜査機関に発覚していないため、犯罪が認識されていない
- 窃盗自体は捜査機関に認識されているが、犯人は特定されていない
指名手配されると手遅れになるため、自首は早ければ早いほどよいと言えます。
弁護士に早期相談する
弁護士への相談が早いほど、選択できる手段も増えます。弁護士に依頼できることと利点については、下記を参考にしてください。
- 弁護士同行で自首をすると、逮捕を回避できる可能性が高くなる
- 取り調べに対して適切なアドバイスがされる
- 身柄拘束を阻止したり解放を早める手続きが、有利に行われる
- 不起訴によって前科を回避できる可能性が高くなる
なお示談交渉を弁護士に一任することも効果的です。示談の有用性や方法については次の見出しにて解説します。
示談を成立させる
窃盗の初犯で示談が成立していると、不起訴処分になる可能性が高くなります。検察が犯罪の処分を検討する際、被害者の感情や被害の回復を重視するからです。被害者が加害者を許しているなら、処分も軽減されます。
示談の成立を証明するには、有効な示談書を作成し、捜査機関に提出しなくてはなりません。示談書に下記の内容が記載されていることが望ましいです。
- 被害者は加害者を許した
- 加害者の刑事処罰を求めない
- 被害届の取下げをする
窃盗の被害者にとっては「民事訴訟を起こさなくても被害が回復する」というメリットがあります。ただし被害者にとってのストレスや恐怖は計り知れません。被害感情が強い場合、示談交渉は難航します。
示談の流れ
起訴処分が下された後に示談が成立しても、処分を変えることはできません。逮捕されてから起訴されるまでの期間は最大で23日です。その間に示談を成立させることが目標となります。示談の大まかな流れは下記を参考にしてください。
- 被害者に連絡をする
- 示談の条件を提示して交渉する
- 交渉が成立したら示談書を作成する
- 示談金を支払う
- 示談書を捜査機関に提出する
加害者の身柄が拘束されている場合、本人が示談交渉をすることはできません。したがって弁護士に依頼するのが一般的です。被害者の連絡先がわからなければ、弁護士から捜査機関に情報の開示を求める必要があります。身柄拘束されていなくても、示談交渉を適切に進行したければ、弁護士への相談を検討しましょう。
示談金の相場
窃盗の初犯だからといって示談金は安くなりません。初犯か否かは被害者にとって些細な問題です。窃盗の示談金の相場は以下を参考にしてください。
- 盗んだ金品の総額
- 盗んだ金品の金額の2倍
- 盗んだ金品の金額プラス20~50万円
盗んだ金品分を弁済するのは当然です。さらに被害感情に対する慰謝料や、被害者が捜査に協力する手間や時間も考慮する必要があります。
更生や再犯防止に取り組む
窃盗罪は再犯率が高い犯罪のため、再犯防止に向けた取り組みを示すことが重要です。再犯防止の対応が早いほど、量刑も軽くなる傾向にあります。具体策は下記を参考にしてください。
- 家族によるサポートがある
- 窃盗の原因が病気による場合は、治療に特化したプログラムの実施
弁護士に相談をすると、減刑および再犯防止に効果的な対策が提案されます。
まとめ
窃盗は初犯でも前科が付いたり、実刑になったりする犯罪です。一方で示談が成立していれば、不起訴や執行猶予が付く可能性が高くなります。
窃盗事件の処分や刑罰を軽くするには、早期に適切な対応をすることが重要です。起訴処分が決定した後に示談が成立しても、処分は変わりません。身柄を拘束されていたり、示談交渉が難航していたりする場合は、弁護士に相談することをおすすめします。