法令上特別な許可・指定を受けていない限り、覚醒剤と関わりをもつと逮捕されます。「使用」が処罰対象から外されている大麻とは異なり、覚醒剤は使用・所持・譲渡・譲受などの幅広い行為類型が刑事訴追の対象です。
そして、覚醒剤使用等の嫌疑がかけられた場合には、初犯でも身柄拘束付きの厳しい取調べが実施される可能性が高いでしょう。これは、覚醒剤などの薬物事犯が組織的に行われている可能性があること、近年薬物事犯に対する取り締まりが厳しくなっていることが背景として挙げられます。
覚醒剤所持などの容疑で逮捕されたのに一切防御方法に手を尽くさなければ、長期間身柄拘束付きの取調べを強いられたり、実刑の有罪判決が下されたりするリスクが高まります。会社を解雇されたり、前科がつくことによって日常生活にさまざまな支障が生じたりすると、覚醒剤との関わりを断って社会復帰を目指すのが困難になりかねません。
そこで今回は、覚醒剤との関わりが原因で逮捕されるのではないかと不安を抱えている方や、ご家族が覚醒剤事犯で逮捕されてどうすれば良いか分からないというご家族のために、以下4点について分かりやすく解説します。
- 覚醒剤取締法違反に問われる犯罪類型と法定刑
- 覚醒剤への関与が警察にバレて逮捕されるときの刑事手続きの流れ
- 覚醒剤への関与が理由で逮捕・前科がついたときに生じるデメリット
- 覚醒剤への関与が原因で逮捕されたときに弁護士へ相談するメリット
覚醒剤などの薬物事案は、2回目・3回目だけではなく、初犯でも厳しい刑事処分が下される可能性が高い犯罪類型です。だからこそ、警察の捜査が及んだ時点で薬物犯罪の実務に詳しい弁護士に相談をするのが効果的だと考えられます。
刑事手続きは、厳格な時間制限の下、粛々と推し進められていってしまうので、覚醒剤関係で少しでも不安ごとを抱えているのならすみやかに専門家までお問い合わせください。
目次
覚醒剤取締法違反で逮捕されるときの罪責と法定刑
覚醒剤は依存性の高い薬物であり、濫用によって保健衛生上の甚大な危害を生ぜしめるおそれがあるため、所持や使用などの幅広い行為が規制対象とされています。
まずは、覚醒剤とはどのような薬物なのか、どのような行為が処罰対象にされているのかについて、それぞれ具体的に見ていきましょう。
覚醒剤とは
覚醒剤とは、フエニルアミノプロパン(アンフェタミン)、フエニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン)、及び、その塩類や、これらのいずれかを含有する精神刺激薬のことです(覚醒剤取締法第2条第1項各号)。取引をされる際には、「シャブ」「スピード」「S(エス)」「アイス」「白い粉」「ヤーバー」などの俗称で呼ばれます。
「覚醒剤を使用すると食欲が減衰するのでダイエットに使える」「覚醒剤には眠気や疲労感をなくす効果があるので頭の冴えた状態で仕事に打ち込むのに役立つ」などとメリットが強調されることもありますが、これは大間違いです。覚醒剤の覚醒効果や幻覚効果は一時的なものでしかなく、効果が切れた途端、激しい脱力感や疲労感が使用者を襲います。その結果、中毒から抜け出すことができなくなり、乱用・幻覚・妄想に取りつかれた状態で心身がボロボロに追い込まれてしまいます。
また、覚醒剤濫用による幻覚・妄想は、殺人や放火などの凶悪な犯罪、重大な交通事故を引き起こす可能性もあるので、乱用者本人の心身を傷つけるだけではなく、家族や周囲、社会に取り返しのつかない甚大な被害を及ぼしかねません。
このように、覚醒剤が高度な危険性を有する薬物であることを踏まえて、覚醒剤に関するさまざまな行為が厳しく取り締まり対象とされています。
覚醒剤で逮捕されるときの犯罪類型
覚醒剤に関与して逮捕される場合には、「覚醒剤取締法違反」を理由として刑事訴追されることになります。
ここからは、覚醒剤取締法において処罰対象とされる以下の犯罪類型について、それぞれ具体的に解説します。
- 覚醒剤の輸入・輸出・製造
- 覚醒剤の営利目的での輸入・輸出・製造
- 覚醒剤の所持・譲渡・譲受
- 覚醒剤の営利目的での所持・譲渡・譲受
- 覚醒剤の使用
- 覚醒剤の営利目的での使用
- 覚醒剤原料の輸入・輸出・製造
- 覚醒剤原料の営利目的での輸入・輸出・製造
- 覚醒剤原料の所持・譲渡・譲受・使用
- 覚醒剤原料の営利目的での所持・譲渡・譲受・使用
覚醒剤の輸入・輸出・製造
覚醒剤をみだりに日本国内外に輸出入すること、覚醒剤をみだりに製造することは、覚醒剤取締法第41条第1項において処罰対象とされています。「みだりに」は、「正当な理由がないのに」という意味に言い換え可能です。
覚醒剤の輸入・輸出・製造の罪の法定刑は、「1年以上の有期懲役刑」です。
また、覚醒剤の輸入・輸出・製造の罪は、未遂犯も処罰対象と扱われます(同法第41条第3項)。未遂の場合には情状により刑が減軽されることがありますが、基本的には既遂犯と同じ「1年以上の有期懲役刑」の範囲で有罪判決が言い渡されます。
覚醒剤の営利目的での輸入・輸出・製造
営利目的で、覚醒剤をみだりに日本国内外に輸出入すること、覚醒剤をみだりに製造することは、覚醒剤取締法第41条第2項において処罰対象とされます。
覚醒剤の営利目的輸入・輸出・製造の罪の法定刑は、「無期もしくは3年以上の懲役刑、または、情状により無期もしくは3年以上の懲役刑及び1,000万円以下の罰金刑」です。未遂犯も処罰対象です(同法第41条第3項)。
単純輸入・輸出・製造とは違って、営利目的での輸出入・製造は、公共に及ぼす覚醒剤リスクが比較にならないほど大きいです。そのため、単純輸出入・製造よりも大幅に法定刑が引き上げられています。
覚醒剤の所持・譲渡・譲受
覚醒剤をみだりに所持すること、覚醒剤をみだりに譲り渡し・譲り受けすることは、覚醒剤取締法第41条の2第1項違反として処罰対象とされています。
覚醒剤の所持・譲渡・譲受の法定刑は、「10年以下の懲役刑」です。懲役刑の下限は1カ月以上と定められているので、実刑で有罪になる場合には、1カ月以上10年以下の範囲で判決が言い渡されます。
覚醒剤の所持・譲渡・譲受の罪は、未遂犯の段階で逮捕対象です(同法第41条の2第3項)。
覚醒剤の営利目的での所持・譲渡・譲受
営利目的で、覚醒剤をみだりに所持すること、覚醒剤をみだりに譲り渡し・譲り受けすることは、覚醒剤取締法第41条の2第2項違反の禁止行為です。
覚醒剤の営利目的所持・譲渡・譲受の罪の法定刑は、「1年以上の有期懲役刑、または、情状により1年以上の有期懲役刑及び500万円以下の罰金刑」と定められています。未遂犯も処罰対象です(同法第41条の2第3項)
単純所持・譲渡・譲受と比べると、法定刑の下限が引き上げられている点がポイントです。これは、営利性をもって覚醒剤を頒布する行為に含まれる危険性の高さが理由となっています。
覚醒剤の使用
以下に該当するケースを除いて、何人も覚醒剤を使用することは禁止されています(覚醒剤取締法第19条)。
- 覚醒剤製造者が製造のために使用するケース
- 覚醒剤使用機関において診療に従事する医師・覚醒剤研究者が施用するケース
- 覚醒剤研究者が研究のために使用するケース
- 覚醒剤施用機関において診療に従事する医師・覚醒剤研究者から施用目的で交付された者が施用するケース
- その他、覚醒剤の使用が法令に基づいて行われるケース
ここから分かるように、覚醒剤は日本国内での使用が全面的に禁止されているわけではなく、学術研究や医療機関など、指定を受けた施設では使用が認められています。
このような例外的な場面以外で覚醒剤を使用した場合には、「10年以下の懲役刑」が科されます(同法第41条の3第1項第1号)。覚醒剤使用罪は未遂犯も処罰対象です(同法第41条の3第3項)。
覚醒剤の営利目的での使用
営利目的で覚醒剤を使用することは、覚醒剤取締法第41条の3第2項に違反する犯罪行為です。
覚醒剤の営利目的所持の罪の法定刑は、「1年以上の有期懲役刑、または、情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金刑」と定められています。営利目的所持の罪についても、未遂犯は処罰対象です(同法第41条の3第3項)。
覚醒剤原料の輸入・輸出・製造
法令によって許可されている場合を除いて、覚醒剤原料の輸入・輸出・製造をすることは禁止されています(覚醒剤取締法第30条の6、第30条の8)。
覚醒剤原料の輸出・輸入・製造の罪の法定刑は、「10年以下の懲役刑」です(同法第41条の3第1項第3号4号)。未遂犯も処罰対象と扱われます(同法第41条の3第3項)。
なお、本条の規制対象である「覚醒剤原料」とは、エフェドリン・プソイドエフェドリン・クロロエフェドリン・クロロプソイドエフェドリン・セレギリン・デプレニルなど、覚醒剤取締法別表に指定されたものを指します(同法第2条第5項)。
覚醒剤原料の営利目的での輸入・輸出・製造
営利目的で覚醒剤原料を輸入・輸出・製造することは覚醒剤取締法第41条の3第2項に違反する犯罪行為です。
覚醒剤原料の営利目的輸入・輸出・製造の罪の法定刑は、「1年以上の有期懲役刑、または、情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金刑」です。未遂犯も処罰対象と扱われます(同法第41条の3第3項)。
覚醒剤原料の所持・譲渡・譲受・使用
法令で認められている場合を除いて、覚醒剤原料を所持・譲渡・譲受・使用する行為は禁止されています(覚醒剤取締法第30条の7、第30条の9、第30条の11)。
覚醒剤原料の所持・譲渡・譲受・使用の罪の法定刑は、「7年以下の懲役刑」です(同法第40条の4第1項第3号4号5号)。これらの行為はすべて未遂犯も処罰されます(同法第40条の4第3項)。
覚醒剤原料の営利目的での所持・譲渡・譲受・使用
営利目的で、覚醒剤原料を所持・譲渡・譲受・使用する行為も禁止されています(覚醒剤取締法第40条の4第2項)。
覚醒剤原料の営利目的所持・譲渡・譲受・使用の罪の法定刑は、「10年以下の懲役刑、または、情状により10年以下の懲役刑及び300万円以下の罰金刑」です。本罪についても、未遂犯は処罰対象と扱われます(同法第40条の4第3項)。
【注意!】覚醒剤に関与すると麻薬特例法違反で逮捕される可能性も生じる
覚醒剤に関与すると、覚醒剤取締法違反だけではなく、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(通称「麻薬特例法」)」違反の罪にも問われる可能性があるので注意が必要です。
麻薬特例法違反に問われる行為の種類・法定刑は以下の通りです。
行為類型 | 法定刑 | 条文 |
---|---|---|
業として行う覚醒剤の輸入、輸出、製造、譲渡、譲受 | 無期または5年以上の懲役刑及び1,000万円以下の罰金刑 | 第5条第4号 |
薬物犯罪収益等の取得・処分事実・発生原因の仮装、隠匿 | 10年以下の懲役刑もしくは500万円以下の罰金刑(併科あり) | 第6条第1項 |
薬物犯罪収益等の取得・処分事実・発生原因の仮装、隠匿の予備行為 | 2年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑 | 第6条第3項 |
薬物犯罪収益等の収受 | 7年以下の懲役刑もしくは300万円以下の罰金刑(併科あり) | 第7条 |
規制薬物としての物品の輸入、輸出 | 3年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑 | 第8条第1項 |
規制薬物としての譲渡、譲受、所持、受交付 | 2年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑 | 第8条第2項 |
薬物犯罪や薬物濫用の公然、あおり、唆し | 3年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑 | 第9条 |
覚醒剤取締法違反で逮捕されるときの流れ
覚醒剤事件が警察に発覚すると、以下の流れで刑事手続きが進められるのが一般的です。
- 覚醒剤事件が警察にバレて逮捕される
- 覚醒剤事件について警察で取調べが実施される
- 覚醒剤事件が送検されて取調べが実施される
- 検察官が覚醒剤事件について公訴提起するか否かを判断する
- 覚醒剤事件が公開の刑事裁判で審理される
警察が覚醒剤事件を認知する
覚醒剤事件に関する刑事手続きは、警察が捜査の端緒を掴んだ段階でスタートします。
覚醒剤事件が発覚する代表的なパターンは以下3つのシチュエーションです。
- 職務質問などの際の所持品検査で覚醒剤が発見されて現行犯逮捕される
- 覚醒剤の簡易尿検査で陽性反応が出て現行犯逮捕される
- 密売人などの関係者に対する捜査活動からの流れで通常逮捕される
なお、覚醒剤などの薬物犯罪については、警察が被疑者を特定した段階で強制処分である逮捕手続きに移行するのが一般的です。
軽微な万引き事犯や交通事故案件なら前段階として「任意の出頭要請」が行われることも多いですが、薬物犯罪は重大な犯罪類型に位置付けられるので、任意捜査の手順が踏まれる可能性は極めて低いでしょう。
したがって、覚醒剤事件が警察にバレたら即時に身柄拘束されてしまうと覚悟したうえで、警察からの問い合わせがくる前の段階で弁護士に相談をして、今後の方針や防御方法について入念に打ち合わせをしておくべきだと考えられます。
職務質問の所持品検査で現行犯逮捕される
繁華街での職務質問や自動車検問などの際に実施される所持品検査で覚醒剤の現物が発見されると、覚醒剤所持の罪で現行犯逮捕されます。
しばしば、「所持品検査は任意捜査の一環として実施されるものだから、対象者が明確に拒絶すれば職務質問にも所持品検査にも応じずにその場を立ち去ることができる」と言われることがあります。これは、所持品検査によって覚醒剤の所持がバレるのを防ぐために、所持品検査自体を拒絶してしまえば良いのではないか、という主張でしょう。
しかし、そもそも、職務質問に付随して実施される所持品検査は、所持人の承諾を得た範囲で行われるのが原則ですが、当該所持品検査が「強制処分である『捜索』に至らない程度の範囲」であれば、所持品検査の必要性・緊急性・所持品検査によって侵害される個人の法益及び保護される公共の利益とのバランスなどを総合的に考慮した結果、具体的状況のもとで相当と認められる限度において合法な任意処分である、とするのが判例実務です(最判昭和53年6月20日)。
したがって、不審事由があることなどを理由に実施される職務質問や所持品検査を完全に拒絶しきるのは難しいと考えられます。
なお、所持品検査などによって発見された違法薬物が覚醒剤であることは、簡易検査キットによってその場で簡単に判明します。もちろん、「覚醒剤であるとの認識はなかった」「知らない間に鞄に入っていた」などの反論をすることも理屈上は可能ですが、覚醒剤の現物がその場で発見された以上、覚醒剤所持の容疑での現行犯逮捕を回避するのは不可能に近いでしょう。
尿検査で陽性反応が出て現行犯逮捕される
職務質問などの際に任意での尿検査に応じた結果、覚醒剤の陽性反応が出てしまうと、覚醒剤使用の罪で現行犯逮捕されます。
たとえば、歩行の様子や立ち振る舞いに不審な点が見受けられる場合や、職務質問の際のやり取りで薬物事犯の前科があることが判明した場合などでは、警察官から求められる尿検査を拒絶しきるのは難しいでしょう。
なお、警察官からの尿検査について再三の要請があったにもかかわらず拒絶をし続けたとしても、最終的には強制処分のひとつである「強制採尿」が実施されるので、いずれにしても尿検査が行われるのは間違いありません。「医師の手によって尿道にカテーテルが挿入されて尿を採取される」という措置を受けたくないのなら、任意で尿検査に応じて真摯に捜査機関の取調べに応じた方が心証は良くなるでしょう。
覚醒剤取締法違反は現行犯以外の後日逮捕もあり得る
覚醒剤取締法違反は現行犯以外の方法でも逮捕されることがあります。
たとえば、覚醒剤の密売人が逮捕されて、その取調べを進める過程でメールのやり取りや通話履歴が捜査されると、特定された顧客まで芋づる式に通常逮捕されます。
また、SNSやネット掲示板で覚醒剤の購入を募る書き込みなどをしていると、サイバーパトロールに見つかって、警察が逮捕状を持参してある日いきなり自宅にやってくることもあり得るでしょう。
警察段階で48時間以内の取調べが実施される
現行犯逮捕・通常逮捕のいずれであったとしても、覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕された後は、警察署で身柄拘束付きの取調べが実施されます。警察署における取調べ期間は、48時間以内と定められています(刑事訴訟法第203条1項)。
警察に身柄を押さえられると、家族・会社などの外部と一切連絡をとれません(唯一、担当弁護士とだけは接見機会にコミュニケーションが許されます)。
なお、警察に逮捕された後でも「留置の必要がない」と判断されると身柄は釈放されますが、入手経路や過去の犯歴など、覚醒剤事犯では捜査事項がかなり多いので、証拠隠滅や逃亡のおそれがないことをかなり丁寧に説明できなければ早期の身柄解放は難しいでしょう。
覚醒剤事件が検察官送致に送致される
覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕されて、警察で48時間以内の取調べを受けた後は、警察から検察官に身柄が送致されます。
そして、事件を受け取った検察官は、原則24時間以内の取調べを実施して、覚醒剤事犯について公訴を提起するか否かを判断します。
ただし、覚醒剤事件は捜査事項が多いため、24時間の取調べだけでは起訴・不起訴の判断が難しいことも少なくありません。
このように、24時間の時間制限を遵守できない合理的な事情が存在する場合には、検察官による勾留請求が行われて、身柄拘束付きの取調べ期間が10日間~20日間の範囲で延長されます(刑事訴訟法第208条各項)。
検察官が覚醒剤事件について起訴・不起訴を決定する
被疑者の身柄拘束の期限が到来するまでに、検察官は覚醒剤取締法違反の容疑に対して起訴処分・不起訴処分のいずれかを決定します。
起訴処分とは、覚醒剤事件について公訴提起をして刑事裁判にかける意思表示を旨とする訴訟行為のことです。これに対して、不起訴処分とは、覚醒剤事件について公訴提起を見送って検察段階で刑事手続きを終了させる意思表示のことを指します。
日本の刑事裁判の有罪率は約99%とも言われているので、検察官による起訴処分が下された時点で、覚醒剤事件について有罪判決が下される(前科がつく)ことがほぼ確定します。つまり、「覚醒剤取締法違反で逮捕されたがどうしても前科を回避したい」と希望するなら、最大限防御活動を尽くして不起訴処分獲得を目指す必要があるということです。
そして、不起訴処分は以下3種類に分類されるので、覚醒剤取締法違反に該当する犯罪行為を働いたとしても不起訴処分を獲得できる余地が残されています。
- 嫌疑なし(取調べの結果、覚醒剤取締法違反の疑いがないことが判明したケース)
- 嫌疑不十分(取調べの結果、覚醒剤取締法違反の疑いをかけるには不十分であるとの結論に至ったケース)
- 起訴猶予(覚醒剤取締法違反の犯罪事実は存在するものの、諸般の事情を総合的に考慮すると、起訴処分を見送るべきだと判断できるケース)
起訴猶予処分を獲得するには、「初犯であること」「単純所持あるいは覚醒剤の使用料が僅少であること」「組織的な犯罪行為に関与した疑いがないこと」「取調べに対して誠実に向き合っていること」などの諸条件が求められることが多いので、不起訴処分獲得によって前科回避を目指すなら、かならず薬物事案の実績豊富な私選弁護人にご依頼ください。
覚醒剤事件が公開の刑事裁判にかけられる
覚醒剤取締法違反の容疑で起訴処分が下された後は、公開の刑事裁判で審判を仰ぐことになります。
刑事裁判の日程は、起訴処分が下されてから約1カ月~2カ月後のタイミングを指定されるのが一般的です。
公訴事実に争いがなければ第1回口頭弁論期日で結審します。これに対して、否認事件や、抽象的事実の錯誤などの法律論を展開して減軽を狙う場合、捜査手法の問題点を指摘して違法収集証拠排除を主張する場合などでは、複数の口頭弁論期日を経るなかで証拠調べ手続きや弁論手続きが丁寧に進められます。
そして、刑事裁判に提出されたすべての証拠や供述内容などを総合的に考慮して、裁判官が最終的な判決を言い渡します。覚醒剤取締法違反は重大犯罪なので、初犯であれば執行猶予付き判決を獲得できる見込みがあるものの、過去に前科があるようなケースでは実刑判決が下される可能性が高いでしょう。
罰金刑・執行猶予付き判決・実刑判決のいずれも有罪判決であることには変わりないので前科はついてしまいますが、刑務所に収監されるか否かで社会復帰の難易度が大きく左右されます。できるだけ軽い判決内容を獲得するためには、刑事事件に強い弁護士のサポートが不可欠でしょう。
覚醒剤取締法違反で逮捕されることによって生じるデメリット5つ
覚醒剤取締法違反は社会に与えるリスクの大きさに鑑みて初犯でも逮捕される可能性が高い犯罪類型です。
そして、覚醒剤取締法違反で逮捕されると、以下5点のデメリットが生じると言われています。
- 長期間身柄拘束される
- 実名報道などによって社会的制裁を受ける
- 会社にバレると懲戒処分を下される
- 学校にバレると退学処分リスクに晒される
- 前科がつくことで日常生活にさまざまな支障が生じる
それでは、覚醒剤取締法違反で刑事訴追されることによって生じるデメリットについて、それぞれ具体的に解説します。
覚醒剤取締法違反で逮捕後は長期間身柄拘束される可能性が高い
覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕されると、長期間身柄拘束される可能性が高いです。
薬物事犯で刑事訴追された後の身柄拘束期間が長期化する理由として以下5点が挙げられます。
- 簡単に身柄を解放すると、覚醒剤や注射器・吸引器などの証拠物を隠滅されてしまうから
- 密売人や他の共犯者と口裏を合わせる可能性があるから
- 薬物犯罪者は逃亡のおそれがあると判断されがちだから
- 薬物犯罪は組織的に行われている可能性が高いの入手ルートや密売人・顧客情報についての供述を丁寧に引き出す必要があるから
- 捜査機関が満足するような情報を提供しない限り「留置の必要がある」と判断され続けるから
捜査機関に身柄が押さえられる期間が長くなるほど社会生活から断絶されてしまうので、学校や会社に覚醒剤取締法違反で逮捕された事実を知られる可能性が高まるでしょう。
また、取調べ期間中は外部と一切連絡をとることも許されず、そのなかで捜査機関から厳しく追及を続けられるので、心身が疲弊してしまいます。たとえば、正常な判断ができない状況に追い込まれると、自分に不利な供述を強いられたり、供述調書にサインをしてしまうリスクも生じかねません。
長引く取調べ期間を無事にやり過ごすには、唯一接見が許される弁護士との間で丁寧なコミュニケーションを図りながら、取調べに対する供述方針や防御活動の方向性を一貫させるのがポイントです。可能であれば、覚醒剤取締法違反で逮捕される前、遅くとも逮捕された直後までには、薬物事件を得意とする私選弁護人にご依頼ください。
覚醒剤取締法違反で逮捕された事実が実名報道されると社会的信用が失墜する
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合に実名報道されるのは芸能人だけではありません。薬物事犯は社会的に与える影響が大きいので、一般人が覚醒剤所持等で逮捕された場合でもニュース報道やネット記事に載る可能性が高いです。
薬物事件を起こしたことが報道されると、家族や知人、会社にバレて信用を失うだけではなく、匿名第三者から誹謗めいた言葉が寄せられることもあるでしょう。また、名前をネット検索するだけで逮捕歴がバレる状態におちいるので、いつまでも社会生活に支障が生じるリスクに晒されかねません。
薬物事犯に対する世間の目は厳しいです。弁護士に相談して名誉棄損記事などの削除を行えば、比較的不安の軽減された環境で更生の道を歩みやすいでしょう。
学校にバレると退学処分の可能性が高い
薬物が若者にも流通するようになった昨今、学生が覚醒剤取締法違反で逮捕されるケースも少なくありません。
そして、覚醒剤取締法違反で学生が逮捕されて学校にバレると、学則や校則の規定にしたがって何かしらの処分が下される可能性が高いです。
学生に科される処分内容は、事件の内容・学校生活の様子・事件を起こした経緯・反省の態度などを総合的に考慮して決定されることが多いですが、覚醒剤のような違法薬物に手を出したケースでは譴責処分で済むことは少なく、停学処分・退学処分になるのが一般的でしょう。
弁護士に相談すれば学校からの聴き取り調査にも同席・アドバイスしてくれるので、学生生活への影響を最大限軽減したいなら、この点についてもあわせて弁護士までご相談ください。
会社にバレると懲戒処分の対象になる
覚醒剤取締法違反で逮捕された事実が会社にバレると、何かしらの懲戒処分が下される可能性が高いです。
懲戒処分の内容は勤務先の就業規則にしたがって決定されますが、戒告・譴責・減給などの軽い処分で済むことは少なく、出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇などの重い処分が下されることが多いでしょう。特に、覚醒剤取締法違反で逮捕されたことが報道されて会社の信用を毀損した場合には、懲戒解雇を回避するのは難しいと考えられます。
「軽はずみな気持ちで薬物に手を出してしまっただけ」「初犯なのに会社をクビになるのは厳し過ぎる」と思われるかもしれませんが、それだけ薬物犯罪に対する世間一般の考え方は厳しいものだとご理解ください。なお、弁護士に相談すれば会社の処分内容に対する法的措置も検討してくれるので、刑事手続き以外の不安もどうぞお気軽にお尋ねください。
前科がつく可能性が高い
覚醒剤取締法違反で逮捕されると、起訴処分が下された時点で有罪の公算が大きくなるので、実刑判決・執行猶予付き判決・罰金刑のいずれであったとしても前科がつくことになります。
そして、前科がつくと、日常生活に以下のような悪影響が生じます。
- 履歴書の賞罰欄に記載する必要があるので就職活動・転職活動が難しくなる
- 士業や金融業など、前科があると就けない仕事が多い
- パスポート・ビザ発給が拒絶されることがあるので海外渡航に制限がかかる
- 前科がつくことは法定離婚事由に該当するので婚姻関係が破綻する(民法第770条第1項第5号)
- 前科があることでパートナーや子どもの生活にも支障が生じかねない
- 再犯時に刑事処分が重くなる可能性が高い
なお、前科がつくデメリットについては誤解も少なくありません。「前科は住民票・戸籍にのる」「前科があると住宅ローンを組めない」「前科情報はネット検索で簡単に調べられる」などはすべて間違いなのでご安心ください。
覚醒剤取締法違反で逮捕されたときに弁護士に相談するメリット5つ
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合や、覚醒剤使用等の容疑で逮捕されるか不安な場合には、弁護士に相談することを強くおすすめします。
なぜなら、薬物犯罪に強い弁護士に相談すれば以下5点のメリットが得られるからです。
- 弁護士接見で丁寧なアドバイスを提供してくれる
- 早期の身柄解放を目指して手を尽くしてくれる
- 執行猶予付き判決獲得を目指して丁寧に情状を主張してくれる
- 覚醒剤取締法違反で逮捕される前に自首するべきか否かを判断してくれる
- 更生施設やNPO団体・専門治療機関を紹介してくれる
覚醒剤取締法違反で逮捕されると、力を入れて防御活動を展開しなければ厳しい刑事処罰が待っているだけです。刑事手続きの早期の段階で弁護士のサポートがあれば社会復帰をしやすい環境が手に入るので、少しでも不安がある状況ならどうぞお気軽にご相談ください。
接見機会をフル活用して被疑者のケア・サポートに尽力してくれる
逮捕勾留中の被疑者と面会できるのは弁護士だけなので、厳しい取調べで疲弊した被疑者を丁寧にサポートしてくれます。
そもそも、身柄拘束中は捜査員以外とコミュニケーションをとる機会がないので、自分の唯一の味方である弁護士と会話をするだけでも気分が楽になるでしょう。
また、「取調べに対してどこまでの供述をするのか」「否認するのか罪を認めるべきか」など、防御活動の方向性を早期に確立して矛盾のない一貫性をアピールしてくれるので、捜査機関に対する心証が高まります。
さらに、家族への連絡や会社への対応も代理してくれるので、社会生活への支障を最大限軽減してくれるでしょう。
早期の身柄解放を目指して手を尽くしてくれる
覚醒剤取締法違反で逮捕されると身柄拘束期間が長期化する可能性が高いので、弁護士はさまざまな手を尽くして早期の身柄解放に向けて尽力してくれるでしょう。
早期の身柄解放の手段として以下のポイントが挙げられます。
- 微罪処分を獲得して警察段階で刑事手続きを終了させてくれる
- 証拠隠滅や逃亡のおそれがないことをアピールして在宅事件を目指してくれる
- 留置の必要がないことを主張して逮捕・勾留の根拠がないことを示してくれる
- 反省の態度を示す、家族の支援体制が充実していることなどを主張して不起訴処分獲得を目指してくれる
- 起訴処分を下された後、すみやかに保釈請求してくれる
覚醒剤事犯は初犯でも逮捕される可能性が高い犯罪類型ですが、丁寧に防御活動を展開すれば在宅事件や不起訴処分獲得も不可能ではないので、「逮捕されたら人生終わり」と諦めるべきではありません。
事案の状況によって防御方法は異なりますが、薬物犯罪の実績豊富な弁護士に早期に向かうべき方向性を決定してもらいましょう。
執行猶予付き判決獲得を目指して弁護活動を展開してくれる
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合の最大の分岐点は「実刑判決・執行猶予付き判決のいずれが下されるのか」という点です。
実刑判決を下されると拘禁期間分だけ社会生活から断絶されて更生が難しくなるので、丁寧に情状を主張してもらって執行猶予付き判決獲得を目指しましょう。
なお、覚醒剤取締法違反で逮捕された場合には、全部執行猶予が難しくても、諸般の事情を総合的に考慮して更生に役立つと判断された場合には「刑の一部執行猶予」を勝ち取ることも可能です(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第3条、刑法第27条の2)。
逮捕される前に自首するべきか否かを判断してくれる
捜査機関に犯行がバレる前に自首すれば、刑の減軽・軽い刑事処分を期待できます(刑法第42条第1項)。
つまり、「所持している覚醒剤が警察にバレたらどうしよう」「軽はずみな気持ちで売人から覚醒剤を買ってしまったが、売人経由で犯行がバレたら困る」などと不安を抱えているのなら、捜査が及ぶ前に警察に自首することによって微罪処分・起訴猶予処分獲得の余地が生まれるということです。
とはいえ、「覚醒剤を持参して警察に自首すると厳しい処罰が下されるのではないか」「せっかく自首による減軽を期待したのに長期間逮捕・勾留されて前科までついてしまった」ということにもなりかねない点には注意しなければいけません。
弁護士に相談すれば、覚醒剤取締法違反の状況などを総合的に考慮して自首の有効性を判断してくれるでしょう。
薬物依存の治療施設を紹介してくれる
覚醒剤などの違法薬物に手を出してしまった場合、軽い刑事処分獲得を目指すのも大切なことですが、薬物依存を根本的に治療することも忘れてはいけません。薬物犯罪は再犯率が高く誘惑も多いので、しっかりと治療しなければ何かしらのタイミングで再び覚醒剤に手を染めることになってしまいます。
刑事事件や薬物犯罪弁護に力を入れている弁護士なら、治療機関やカウンセリング施設と提携していることが多いです。これらの機関と繋がれば、薬物依存から立ち直ることができるでしょう。
覚醒剤取締法違反で逮捕されたら弁護士の力を借りて実刑判決回避を目指そう
覚醒剤取締法違反は、初犯でも逮捕される可能性が高い犯罪です。捜査機関の言いなりになったままだと、長期間の身柄拘束を強いられた後で、有罪判決が下されるのが確定的です。
薬物との関係を断つため、恵まれた環境で更生を目指すためには、できるだけ軽い刑事処分を獲得しなければいけません。弁護士に相談すれば刑事手続きのステージに応じた防御方法を展開してくれるので、可能な限り早いタイミングで薬物事件に強い専門家までご相談ください。