特殊詐欺で逮捕されるときの流れとは?不起訴処分・執行猶予を目指すポイントを解説

特殊詐欺で逮捕されるときの流れとは?不起訴処分・執行猶予を目指すポイントを解説
特殊詐欺で逮捕されるときの流れとは?不起訴処分・執行猶予を目指すポイントを解説

特殊詐欺に関与すると、たとえ末端の実行役や詐欺行為の全体像を把握していなかったとしても、逮捕される可能性があります

たとえば、「特殊詐欺事件の首謀者は国外に居住しており、日本国内の実行役はその指示に従っただけ」というケースでは、「先に日本国内の実行役が詐欺罪などの容疑で逮捕された後、入念な捜査活動を経た結果、海外に所在する主犯格の逮捕に至る」というプロセスを経るのが一般的です。

つまり、特殊詐欺事件の末端構成員として関与しただけで、逮捕・勾留・起訴後勾留という長期に及ぶ身柄拘束を強いられるだけではなく、複数の詐欺事件に関与したことを理由に一発実刑が下される可能性が高いということです。

そこで今回は、特殊詐欺への関与を理由に警察から事情聴取の要請がかかって不安を抱えている方や、ご家族が特殊詐欺事件への関与を理由に逮捕された方のために、以下5点について分かりやすく解説します。

  1. 最近の特殊詐欺の手口
  2. 特殊詐欺への関与を理由に逮捕されるときの犯罪類型と法定刑
  3. 特殊詐欺への関与を理由に逮捕されるときの刑事手続きの流れ
  4. 特殊詐欺への関与を理由に逮捕されたときに生じるデメリット
  5. 特殊詐欺への関与が警察にバレたとき、逮捕されたときに弁護士へ相談するメリット

特殊詐欺は共犯関係が複雑だったり被害件数が多数に及ぶことが多いため、どのようなポジションで特殊詐欺事件に関与したとしても厳しい捜査活動が想定されます

身柄拘束期間の短縮化や不起訴処分・執行猶予付き判決などの軽い刑事処分を獲得するには専門家のサポートが不可欠なので、出来るだけ早いタイミングで特殊詐欺事件の実績豊富な弁護士までお問い合わせください

目次

特殊詐欺で逮捕される場面と犯罪類型

特殊詐欺事件の行為態様はさまざまで、特に、実行役を担わされる末端構成員はハイリスクな犯罪行為を担当させられるケースが少なくありません。

まずは、近年の特殊詐欺の代表的手口や、特殊詐欺が立件されたときに容疑をかけられる罪状について解説します。

最近の特殊詐欺手口

特殊詐欺とは、不特定多数の被害者から現金などを騙し取る組織的な詐欺行為の総称です。

近年では、SNS(Twitter、Instagram等)、インターネット掲示板(5ちゃんねる、ジモティー等)、求人サイト(indeed、エンゲージ等)などで、「闇バイト」という形で特殊詐欺の実行役などの募集がかけられることが多いです。

ここからは、特殊詐欺の具体的な手口を紹介します。

オレオレ詐欺

オレオレ詐欺とは、「親族、警察官、弁護士などを装い、親族が起こした事件・事故に対する示談金等を名目に金銭を騙し取る(脅し取る)特殊詐欺手口」のことです。

たとえば、被害者の息子を装って「交通事故を起こしたから示談金・保証金が必要になった」と電話をかけて、受け子に現金を受け取りに訪問させたり、指定した預貯金口座にATMから振込みをさせたりします。

預貯金詐欺

預貯金詐欺とは、「親族、警察官、銀行員、銀行協会職員などを装って、『あなたの口座が犯罪に悪用されているのでキャッシュカードの交換が必要だ』などの名目で、キャッシュカード・クレジットカード・預金通帳などを騙し取る(脅し取る)特殊詐欺手口」のことです。

架空料金請求詐欺

架空料金請求詐欺とは、「有料サイトの事業者、法務省・法務局、裁判所などを装って、『未払い料金を支払わないと民事裁判になる、警察に通報する』などの虚偽の事実をメール・ハガキ・封書で通知し、金銭などを騙し取る(脅し取る)特殊詐欺手口」のことです。

従来は現金を指定口座に振り込ませるケースが多かったですが、現在では、ネット決済専用のプリペイドカードをコンビニなどで購入させて番号を送信させる方法によって経済的利益を入手する詐欺手法が採られる傾向にあります。

還付金詐欺

還付金詐欺とは、「自治体職員や年金事務所の職員を騙って税金・年金・公的給付などの還付金を受け取れるなどと虚偽の事実を伝えて、指定した銀行口座に現金を振り込ませる特殊詐欺手口」のことです。

融資保証金詐欺

融資保証金詐欺とは、「実際には融資をしないのに、簡単に融資を受けることができると信じ込ませて、申込者から保証金名目等で金銭を騙し取る(脅し取る)特殊詐欺手口」のことです。

たとえば、メガバンク・大手クレジット会社・消費者金融などと酷似した社名を名乗ったり、雑誌広告・SNSで融資希望者を募る手法が採られます。

金融商品詐欺(投資詐欺)

金融商品詐欺(投資詐欺)とは、「架空の未公開株式・有価証券・外国通貨などの金融商品や本来は価値のない物品などについての虚偽情報を提供して、儲かると信じ込んだ被害者から購入資金用の金銭を騙し取る(脅し取る)特殊詐欺手口」のことです。

かつては、いわゆる「ねずみ講」と呼ばれるものが大半でしたが、マルチ商法やポンジ・スキームなど、特殊詐欺手法が多様化しています。

ギャンブル詐欺

ギャンブル詐欺とは、「パチンコ・パチスロ・公営ギャンブルの必勝法、ロト6・宝くじなどの当選番号を教えると被害者を騙したり、スロットの打ち子への会員登録を勧誘したりすることで、情報料や授業料という名目で金銭を騙し取る(脅し取る)特殊詐欺手口」のことです。

交際あっせん詐欺

交際あっせん詐欺とは、「雑誌に『男女紹介、男性紹介、女性紹介』などの案内広告を掲載したり、不特定多数に異性関係を彷彿とさせるメールやDMなどを送りつけたりすることで、会員登録料や保証金などの金銭を騙し取る(奪い取る)特殊詐欺手口」のことです。

キャッシュカード詐欺盗

キャッシュカード詐欺盗とは、「警察官・銀行員・大手百貨店職員・家電量販店従業員などを装って、『キャッシュカードやクレジットカードが不正に利用されている』などと言って被害者の自宅等に訪問をして、相手方の隙を見計らってキャッシュカードを騙し取ったりすり替えたりする特殊詐欺手口」のことです。

その他特殊詐欺

特殊詐欺事件では、被害者を騙すためにどんどん手口が巧妙化しているのが実情です。

したがって、ステレオタイプな特殊詐欺は上記9種類に分類されるものの、これらに含まれない手口であったとしても、詐欺罪・窃盗罪などの犯罪構成要件を満たす限りは、逮捕される可能性があります。

特殊詐欺をしたときに問われる犯罪類型と法定刑

特殊詐欺をしたときに問われる代表的な犯罪類型は以下2つです。

  • 詐欺罪
  • 詐欺未遂罪
  • 組織的犯罪処罰法が適用される詐欺罪
  • 窃盗罪

ここからは、詐欺罪・窃盗罪の構成要件及び法定刑について解説します。

詐欺罪

詐欺罪(1項詐欺罪)とは、「人を欺いて財物を交付させたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第246条第1項)。詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役刑」です。

詐欺罪の構成要件は以下5点です。

  1. 欺罔行為
  2. 錯誤
  3. 財物の交付行為
  4. ①②③の因果関係
  5. ①②③④に対する故意
欺罔行為

詐欺罪の実行行為は「欺罔行為」です。欺罔行為とは、「人を欺く行為」を意味します。

たとえば、オレオレ詐欺などの特殊詐欺を実現するために被害者宅を訪問して銀行員などを装う行為、還付金詐欺において被害者宅に向けて郵便物を送付する行為などが欺罔行為として挙げられます。

なお、詐欺罪の実行行為である欺罔行為に該当するためには、当該欺罔行為が以下の要素を備えている必要があります

  • 人の錯誤を惹起する危険性があること
  • 人の交付行為に向けられたものであること
  • それがなければ交付行為をしなかったであろう重要な事実に関する欺罔行為であること
錯誤

特殊詐欺事件が詐欺罪として立件されるには、「被害者が錯誤に陥ったこと」という要件を満たす必要があります。

たとえば、オレオレ詐欺のような特殊詐欺事件の被害者が目の前に現れた人物を金融機関の担当者であると誤信した場合などが挙げられます。

財物の交付行為

特殊詐欺事件が詐欺罪として立件されるには、「財物の交付行為」という要件が必要です。財物の交付行為は、「欺罔行為によって錯誤状態に陥った被害者の『瑕疵ある意思表示』に基づく財物の交付行為」のことです。

たとえば、オレオレ詐欺のような特殊詐欺事件で被害者宅にやってきた受け子に対して現金・キャッシュカード・預金通帳などを手渡しする行為が「交付行為」に該当します。

因果関係

特殊詐欺事件が詐欺罪で立件されるには、「欺罔行為によって被害者が錯誤に陥り、その結果、財物が交付される」という因果の流れを経る必要があります。

たとえば、オレオレ詐欺の事例では、「被害者に電話連絡を入れて喫緊に現金が必要な状況であると伝えて身分を装った受け子が被害者宅を訪問する(欺罔行為)」「電話連絡と訪問行為によって被害者が騙される(錯誤)」「被害者が受け子に現金を渡す(財物の交付行為)」と当てはめられます。

なお、詐欺罪の因果関係が途中で切れたとしても、詐欺罪の実行の着手が認められる場合には、「詐欺未遂罪」の容疑で逮捕されます

故意

特殊詐欺事件が詐欺罪で立件されるには、「故意」という主観的構成要件が必要です。

故意は、「罪を犯す意思」のことです(刑法第38条第1項)。具体的には、「犯罪事実に対する認識・認容」を意味します。詐欺罪の場合、「欺罔行為によって被害者が錯誤状態に陥り、これによって財物を交付させること」に対する認識・認容が必要です。

なお、特殊詐欺事件の場合、受け子などの末端構成員は詐欺行為の全貌を知らされていないケースが少なくありません。特殊詐欺計画の全体像を把握していない以上、理屈の上では「故意が存在しない = 詐欺既遂罪・詐欺未遂罪に問われない = 無罪」ということになるはずです。

しかし、刑事実務では、特殊詐欺計画を理解せずに闇バイトに応募して軽い気持ちで参加しただけの末端構成員にも故意があると認定される傾向が強いです。たとえば、特殊詐欺で被害者から郵送された荷物を回収するだけの役を担っただけでも、「指示によってマンションの空室に赴いたこと」「名宛人になりすまして荷物を受け取ったこと」「回収役に荷物を手渡して報酬を受け取っていたこと」「同様の行為を何度も繰り返して不当に高額な報酬を得ていたこと」などの個別具体的な事情を前提に、客観的事情から特殊詐欺行為の全体像に対する認識・認容があったとする判例も存在します(最判平成30年12月11日)。

裏を返せば、「特殊詐欺とは知らずに軽はずみな気持ちで闇バイトに応募しただけ」という言い訳だけでは故意を否定することはできませんが、闇バイトへの関与の程度や与えられた役割次第では、客観的事情を前提に詐欺罪の故意を否定できる可能性があるということです。刑事事件の実績豊富な私選弁護人への依頼によって、故意の否定に傾く有利な証拠を収集してもらいましょう。

詐欺未遂罪

特殊詐欺事件に関与をすると、詐欺未遂罪の容疑で逮捕される可能性もあります。

詐欺未遂罪とは、「錯誤に基づいて財物を交付させるために欺罔行為に及んだものの、実際に財物の交付に至らなかったとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第250条、同法第246条第1項)。

たとえば、オレオレ詐欺の受け子として特殊詐欺被害者の自宅を訪問したところ、現場に待期していた警察官に現行犯逮捕されたときには、詐欺未遂罪で逮捕される可能性が高いです(その後の捜査活動によって別の詐欺事件で被害が生じていることが判明したときには、別途詐欺既遂罪の容疑で逮捕・起訴されます)。

既遂犯と同じく、詐欺未遂罪の法定刑は「10年以下の懲役刑」です。ただし、特殊詐欺行為の実行に着手して未遂に終わった場合には、「刑の任意的減軽」というメリットを得られます(刑法第43条本文)。

したがって、詐欺未遂罪の容疑で逮捕されるにとどまったケースでは、刑事事件に強い弁護士に相談のうえ、不起訴処分や執行猶予付き判決獲得を目指してもらいましょう

組織的犯罪処罰法が適用される詐欺罪

特殊詐欺への関与が原因で逮捕された場合、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)」が適用される可能性があります。

組織的犯罪処罰法とは、マネーロンダリングや特殊詐欺事件の巧妙化に対応するために規定された法律です。

特殊詐欺事件が「団体の活動」として行われたときには、受け子であろうが、首謀者であろうが、法定刑が「1年以上の有期懲役刑」に引き上げられます(同法第3条第1項第13号)。

なお、組織的犯罪処罰法が適用される「団体」とは、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的または意思を実現する行為の全部または一部が組織的に反復して行われる団体によって詐欺行為が実行されるもの」を指します。たとえば、暴力団や反社会的組織だけではなく、仲間内の不良グループが組織的に特殊詐欺事件に及んでいる場合も、組織的犯罪処罰法が適用されかねません

「地元の先輩に誘われただけ」という軽い気持ちで特殊詐欺に関与しただけでも極めて重い刑事罰が下される可能性があるので、かならず刑事手続きの初期段階から刑事事件実績豊富な弁護士までご相談ください

窃盗罪

特殊詐欺に関与したときには、「窃盗罪」の容疑で逮捕される可能性もあります。

窃盗罪とは、「他人の財物を窃取したとき」を処罰対象とする犯罪類型のことです(刑法第235条)。窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」と定められています。また、窃盗罪は未遂犯も処罰対象です。

たとえば、「キャッシュカード受け取り型」の特殊詐欺事件の出し子役がATMで現金を引き出したときや、「キャッシュカードすり替え型」と呼ばれるケースに受け子役として関与したときには、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立します。

窃盗罪の構成要件は以下4点です。

  1. 他人の財物
  2. 窃取(他人が占有する財物を、占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転させること)
  3. 故意(「他人の財物を窃取すること」に対する認識・認容)
  4. 不法領得の意思(権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法にしたがって利用・処分する意思)

特殊詐欺で逮捕されるときの刑事手続きの流れ

特殊詐欺事件への関与が原因で逮捕されるときの刑事手続きの流れは以下の通りです。

  • 特殊詐欺事件を理由に警察に逮捕される
  • 特殊詐欺事件を起こして逮捕された後、警察段階の取調べが実施される
  • 特殊詐欺事件に関する警察段階の取調べが終了した後は、検察官に送致される
  • 特殊詐欺事件について送検された後、検察段階の取調べが実施される
  • 特殊詐欺事件について、検察官が公訴提起するか否かを判断する
  • 特殊詐欺事件が起訴されると公開の刑事裁判にかけられる

特殊詐欺の容疑で警察に逮捕される

特殊詐欺への関与が発覚すると、警察から何かしらの方法でアプローチがかけられます

警察に発覚したシチュエーション次第で、接触方法は以下のような形に分類されます。

  • 通常逮捕
  • 現行犯逮捕
  • 緊急逮捕
  • 任意の出頭要請

特殊詐欺で通常逮捕される場合

通常逮捕とは、「裁判官の事前審査を経て発付される逮捕令状に基づいて実施される身柄拘束処分」のことです(刑事訴訟法第199条第1項)。

過去の特殊詐欺事件に対して詐欺罪などの容疑で逮捕状が発付されると、特殊詐欺犯の身体・行動の自由が完全に制約されて、警察署に連行されます。

一般的には、平日早朝など、被疑者が自宅に所在する可能性が高いタイミングで捜査員が押し掛けてくることが多いです。「今日は仕事があるから別の日にして欲しい」などの要望は一切聞き入れられません。

特殊詐欺事件で逮捕状が発付される要件

逮捕状の発付要件は以下2点です。

  1. 逮捕の理由:被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること
  2. 逮捕の必要性:被疑者の身柄を強制的に拘束した状態での取調べを実施する必要性(証拠隠滅・逃亡のおそれ)があること
特殊詐欺事件について逮捕状が発付される具体例

過去の特殊詐欺が発覚したときに通常逮捕手続きに移行するのは以下のようなケースです。

  • 住所不定・無職・職業不詳で逃亡するおそれがある場合
  • 特殊詐欺事件だけにかかわらず、何かしらの前科・前歴がある場合
  • 特殊詐欺事件について複数の余罪への関与が疑われる場合
  • 特殊詐欺事件の証拠品(スマホやPC、犯行時に着用していた衣装など)を隠滅するおそれがある場合
  • 特殊詐欺事件の被害額が高額の場合
  • 特殊詐欺事件が組織的に行われて共犯者と口裏を合わせるおそれがある場合
  • 特殊詐欺事件の被害者の処罰感情が強い場合
  • 特殊詐欺事件について任意の出頭要請を拒絶した場合
  • 特殊詐欺事件の任意の事情聴取での供述内容が不鮮明な場合、黙秘をしている場合
過去の特殊詐欺事件が警察にバレる理由

過去の特殊詐欺事件はさまざまなシチュエーションで発覚します。

たとえば、どれだけ趣向を凝らした特殊詐欺行為を働いたとしても、その手口が大々的に報道されるに至ると、どこかのタイミングで被害者が騙されたことに気付くでしょう。その結果、警察への被害申告をきっかけに捜査活動が開始されて、ATMなどに設置された防犯カメラ映像などから犯人の身元が容易に特定されます。

また、組織的に行われることが多い特殊詐欺事件は、共犯者の誰か一人が警察に捕まった時点で組織に関わった人物すべてが芋づる式に逮捕される可能性が高いのも特徴的です。

過去の特殊詐欺事件はいつまで逮捕リスクを抱えるのか

過去に特殊詐欺事件へ関与したとしても、一生逮捕リスクを抱えるわけではありません。

なぜなら、詐欺罪や窃盗罪には「公訴時効制度」が適用されるからです(刑事訴訟法第253条第1項)。

公訴時効とは、「各犯罪類型ごとに定められた公訴時効期間が経過することによって検察官の公訴提起権が消滅する制度」のことです。検察官の公訴提起権が消滅する結果、刑事裁判にかけられることはなくなるので、警察に逮捕される危険性も回避できます。

特殊詐欺事件に関与した場合に問われる犯罪類型の公訴時効期間は以下の通りです(同法第250条各項各号)。

犯罪類型 公訴時効期間
詐欺罪 7年
窃盗罪 7年

つまり、特殊詐欺に関与したとき(もしくは、共犯者によるすべての行為が終わったとき)から7年が経過すれば「時効逃げ切り」が叶うということです。

ただし、特殊詐欺事件は社会的関心の高い犯罪類型であり警察も本腰を入れて捜査活動に踏み出す可能性が高いので、余程巧妙な手口で運に恵まれなければ公訴時効完成まで刑事訴追されずに済むのは難しいです。

公訴時効完成間近に逮捕・起訴されると数年間築き上げたキャリアや生活環境が一瞬で崩れ去ってしまうので、過去に特殊詐欺事件に関与した経験があるなら、警察から問い合わせがあるか否かにかかわらず現段階で自首をすることを強くおすすめします。弁護士のアドバイスを参考に出頭すれば軽い刑事処分を期待できるでしょう。

特殊詐欺で現行犯逮捕される場合

受け子・出し子など、特殊詐欺集団の末端構成員として犯行に関与したときには、現行犯逮捕によって身柄を押さえられる可能性もあります。

特殊詐欺事件が現行犯逮捕される具体例

現行犯逮捕とは、「現に罪を行い、または、罪を行い終わった者(現行犯人)に対する身柄拘束処分」のことです(刑事訴訟法第212条第1項)。通常逮捕と違って逮捕状は要求されず、また、警察などの捜査員だけではなく一般私人も現行犯逮捕(私人逮捕)することができるとされています(同法第213条)。

たとえば、オレオレ詐欺の受け子として被害者宅を訪れたところ、不審に思った家主や事前に110番通報を受けて待機していた警察官によって身柄を取り押さえられることで現行犯逮捕は成立します。

なお、現行犯逮捕の性質上、特殊詐欺事件の首謀者・主犯格よりも、詐欺の実行行為を担う受け子などの下っ端の方が現行犯逮捕リスクを抱えていると言えるでしょう。「トカゲの尻尾切り」に合わないためにも、安易な判断や目先のお金に目がくらんで闇バイトなどに応募するのは絶対にやめてください。

特殊詐欺事件が準現行犯逮捕される具体例

現行犯逮捕は「犯行現場」を対象にする無令状の強制処分ですが、このような「令状主義の例外」は「犯行現場以外の場面」にも拡張されます。

具体的には、「以下4つの要件のいずれかを満たす者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき」には無令状の準現行犯逮捕が可能とされています(刑事訴訟法第212条第2項)。

  • 特殊詐欺の犯人として追呼されているとき
  • 贓物や特殊詐欺に利用したと思われる兇器、被害者から騙し取った現金などの証拠物を所持しているとき
  • 身体や被服に特殊詐欺事件を起こした顕著な証跡があるとき
  • 「特殊詐欺の犯人だ!」と誰何されて逃走しようとするとき

たとえば、受け子として特殊詐欺事件の被害者宅を訪問したところ、警察が待ち受けていることに気付いて逃走したものの、犯行現場から数百メートル離れたところで身柄を拘束された場合、準現行犯人としてその場で有効な逮捕処分が成立します。

特殊詐欺事件が現行犯逮捕に至るきっかけ

特殊詐欺事件の実行犯役は現行犯逮捕のリスクに晒されています。

まず、被害者が警察と事前に通じ合って「騙されたふり作戦」を実施していることを知らずに、「ターゲットは騙されているはずだ」と誤信をした受け子が犯人宅に訪問したところを現行犯逮捕されるケースも少なくありません。

また、被害者から奪ったキャッシュカードを使ってATMを操作している様子を不審に思われて店舗の職員などに通報される可能性もあります。

特殊詐欺で緊急逮捕される場合

特殊詐欺に関与した事実が発覚したシチュエーション次第では、「緊急逮捕」によって身柄を押さえられる可能性もあります。

緊急逮捕とは、「死刑、無期懲役、長期3年以上の懲役刑・禁錮刑にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき」を対象とする逮捕処分のことです。通常逮捕のように事前の逮捕状発付手続きは要求されず、被疑者に対して逮捕理由を告げるだけで身柄拘束処分を実施できます(刑事訴訟法第210条第1項前段)。

たとえば、繁華街などで実施された職務質問や自動車検問の際に、ターゲットが特殊詐欺事件に関与したことを理由に指名手配されている人物であることが判明したときには、任意での同行が難しければ緊急逮捕に切り替えられる可能性が高いでしょう。

なお、緊急逮捕処分が実施された後は、通常の逮捕状発付手続きが履践されます(同法第210条第1項後段)。

特殊詐欺で任意の出頭要請をかけられる場合

特殊詐欺に関与したことが発覚したとしても、常に逮捕処分によって強制的に身柄が拘束されるわけではありません。たとえば、明らかに被疑者に逃亡のおそれがないような状況では、逮捕状の発付要件である「逮捕の必要性」を満たさないため、通常逮捕手続きを実施することは不可能です。

ただし、特殊詐欺事件について逮捕手続きの対象にならないからと言って、警察から一切捜査されないというわけではありません。というのも、特殊詐欺事件について警察が認知をした場合で、かつ、逮捕状の発付要件を満たさないときであったとしても、「在宅事件」として捜査対象になるからです。

在宅事件扱いになると、警察から任意の出頭要請をかけられるのが一般的です。捜査機関から呼び出しを受けたタイミングで警察に出頭し、事情聴取が終了すると自宅に戻ることができます。

特殊詐欺事件が在宅事件処理の対象になるのは以下の通りです。

  • 氏名・住所・職業が明らかで逃亡のおそれがない場合
  • 他の特殊詐欺事件に関与した疑いがない場合
  • 特殊詐欺事件に関与した他の共犯者と口裏を合わせるおそれがない場合
  • 被疑者が関与した特殊詐欺事件における被害額が少額の場合
  • 特殊詐欺事件の被害者との間で示談成立済み、もしくは、被害者の処罰感情が薄い場合
  • 任意の出頭要請に誠実に対応し、事情聴取でも犯行を自供している場合
  • 前科・前歴のない完全初犯の場合

「身柄拘束付きの逮捕処分に基づく強制的な取調べ」と「任意の状況で実施されるある程度融通の事情聴取」なら、後者の方が被疑者にとって有利なのは間違いありません。

したがって、特殊詐欺事件に関与した経験がある場合には、警察から連絡が来る前に弁護士へ相談をして、在宅事件処理を目指した防御活動を展開してもらいましょう。

在宅事件処理の対象になれば身柄拘束期間が一切生じないので、日常生活への悪影響を最大限軽減できます。ただし、任意の出頭要請を拒絶したり、事情聴取中の供述内容に問題があったりすると、「逃亡・証拠隠滅のおそれがある」という理由でいつでも逮捕状が請求される危険性がある点に注意が必要です。また、後述のように逮捕処分に基づく取調べ等には厳格な時間制限が定められている一方で、任意の捜査活動には一切期間制限が設けられていないので、場合によっては数カ月に及んで捜査活動に対応しなければいけなくなる可能性もあります。「在宅事件=不起訴」ではないとご理解のうえ、弁護士に先手を打った防御活動を展開してもらいましょう

特殊詐欺事件について警察で取調べが実施される

特殊詐欺事件への関与が原因で逮捕されると、警察段階の身柄拘束付き取調べが実施されます。

警察段階で実施される取調べには「48時間以内」という時間制限が設けられています(刑事訴訟法第203条第1項)。

事情聴取で素直に犯行を自供するのか、それとも完全に黙秘をするのかは被疑者が自由に決定できます。ただし、警察段階の身柄拘束付き取調べには受忍義務があるので拒絶できません

また、警察に身柄を押さえられている間は、自宅に戻ることも許されません。取調室で事情聴取を受ける時間以外は留置所・拘置所に身柄を留められます。

さらに、被疑者の所持品はすべて取り上げられますし、接見禁止処分が下されることが大半なので、家族や会社の人などと直接連絡を取ることも不可能です。

特殊詐欺事件が警察から検察官に送致される

特殊詐欺事件について警察段階の取調べが終了した後は、警察から検察官に事件・証拠物・身柄が送致(送検)されます(刑事訴訟法第246条本文)。

ただし、詐欺罪・窃盗罪で立件された場合には、微罪処分による早期解放の可能性がゼロではありません(同法第246条但書)。

微罪処分の獲得によって早期の刑事手続き終結を期待できるので、特殊詐欺の容疑で刑事訴追されたときには、出来るだけ早いタイミングで刑事実務に詳しい弁護士へ相談のうえ、微罪処分獲得に向けて尽力してもらいましょう。

特殊詐欺事件について検察段階の取調べが実施される

特殊詐欺事件が送検されると、検察段階の取調べが実施されます。

検察段階の取調べは原則24時間以内

検察段階の取調べの制限時間は「原則24時間」です(刑事訴訟法第205条第1項)。

警察段階48時間と検察段階24時間の合計72時間以内に実施される取調べで得られる証拠等を前提に、検察官が特殊詐欺事件を公訴提起するか否かを判断します。

特殊詐欺事件で逮捕されると勾留請求される可能性が高い

特殊詐欺のような複雑な事件類型では、72時間の事情聴取だけでは公訴提起判断に必要な証拠を収集できないケースが少なくありません。

たとえば、以下のような「やむを得ない理由」が存在する場合には、検察官による勾留請求が認められています(刑事訴訟法第206条第1項)。裁判官が勾留状を発付すると、例外的に被疑者の身柄拘束期間が「10日間~20日間」の範囲で延長されます(同法第208条各項)。

  • 複数の特殊詐欺事件に関与した疑いがある場合
  • 特殊詐欺行為に及んだ指示役・首謀者までたどり着くために長時間の捜査活動を要する場合
  • 被害者や目撃者が多く、参考人聴取に相当の時間を要する場合
  • 防犯カメラ映像・スマホデータなどの解析や鑑定、実況見分に相当の時間を要する場合
  • 特殊詐欺事件に関する事情聴取で供述内容に矛盾点が存在したり黙秘をしている場合
  • 早期の身柄釈放によって共犯者と口裏を合わせるおそれがある場合

以上を踏まえると、特殊詐欺事件への関与が原因で逮捕された場合、公訴提起するか否かの判断が下されるまでに「最長23日間」の身柄拘束期間が生じる可能性があるということです。

そして、仮に不起訴処分を獲得できたとしても、身柄拘束期間が長期化するほど実生活に生じるデメリットは大きくなります。

したがって、特殊詐欺事件への関与などが原因で逮捕されたときには、「勾留阻止」などの身柄拘束期間短縮化に向けた防御活動が重要になると考えられます。刑事事件に強い弁護士はさまざまなアプローチで捜査機関に働きかけてくれるので、出来るだけ早いタイミングで優秀な私選弁護人までご相談ください。

ここまで紹介した「警察段階48時間以内」「検察段階原則24時間以内」「勾留請求された場合は最長23日間」という制限時間は事件単位でカウントされる点に注意しなければいけません。つまり、1つの特殊詐欺事件について逮捕・勾留された後に、別の特殊詐欺事件への関与を理由に再逮捕・再勾留される可能性もあるということです。たとえば、複数回の闇バイトへの応募歴が発覚すると、最終的な起訴判断に至るまで数カ月に及ぶ身柄拘束期間が生じ得るでしょう。

特殊詐欺事件を公訴提起するか検察官に判断される

逮捕・勾留段階の取調べが終了すると、検察官が特殊詐欺事件について起訴・不起訴を決定します。

起訴処分とは、「特殊詐欺事件を公開の刑事裁判にかける旨の訴訟行為」のことです。これに対して、不起訴処分とは、「特殊詐欺事件を公開の刑事裁判にかけずに、検察官限りの判断で刑事手続きを終結させる旨の意思表示」を意味します。

一見すると、起訴・不起訴の判断(公訴提起の判断)は「刑事裁判手続きに移行するか否か」という意味を有するだけのように思えるでしょう。しかし、日本の刑事裁判の実態を踏まえると、起訴・不起訴の判断にはこれ以上の意味が含まれる点に注意が必要です。

というのも、日本の刑事裁判の有罪率は約99%以上なので、実質的には刑事裁判にかけられた時点で有罪になることが事実上確定するからです。つまり、検察官が起訴処分を下した時点で有罪・前科を避けるのは難しくなるということです。

したがって、「実刑判決や前科によるデメリットを避けたい」と希望するなら、不起訴処分の獲得は必須です。公訴提起判断までの防御活動に使える時間は限られているので、警察からコンタクトがあった時点で不起訴獲得実績豊富な弁護士までお問い合わせください

特殊詐欺の容疑で公開の刑事裁判にかけられる

検察官が起訴処分を下すと、特殊詐欺事件が公開の刑事裁判にかけられます。

公開の刑事裁判が開廷される時期は「起訴処分から1カ月~2カ月後」が目安です。公訴事実に争いがなければ第1回公判期日で結審して後日判決が言い渡されます。これに対して、詐欺の故意の有無などについて争う否認事件の場合、複数の公判期日をかけて弁論手続き・証拠調べ手続きが行われて判決言い渡しに至ります。

特殊詐欺事件のような悪質な犯罪行為に手を染めた場合、初犯でも実刑判決が下されかねません。執行猶予付き判決が付くか否かが社会復帰の難易度を左右するので、刑事裁判経験豊富な弁護士に適切な防御活動を展開してもらいましょう

特殊詐欺に関与したり逮捕されたときに生じるデメリット7つ

闇バイトへの応募がきっかけで特殊詐欺事件に関与したり、特殊詐欺への関与を理由に逮捕されたりすると、以下7つのリスクに晒されかねません。

  1. 受け子や出し子など、特殊詐欺事件の実行役ほど逮捕される可能性が高い
  2. 闇バイトなどをきっかけに特殊詐欺グループに関与すると犯罪組織に個人情報がバレる
  3. 特殊詐欺事件が警察にバレると長期間身柄拘束される可能性が高い
  4. 特殊詐欺事件への関与が学校にバレると何かしらの処分が下されかねない
  5. 特殊詐欺事件への関与が勤務先にバレると懲戒処分の対象になる可能性が高い
  6. 特殊詐欺事件への関与が原因で逮捕されると実名報道される危険性が高い
  7. 特殊詐欺事件への関与を理由に逮捕・起訴されると前科によるデメリットを強いられる

特殊詐欺の末端構成員ほど逮捕される可能性が高い

特殊詐欺事件は、首謀者・指示役・実行役というように組織化されて役割分担されるのが一般的です。

首謀者・指示役詐欺の現場に居合わせる必要はないので、たとえば、海外に所在しても特殊詐欺行為の絵を描くことができます。犯人が日本国内に居なければ事実上日本の捜査権限が及ぶ可能性は低いでしょう。

これに対して、受け子・出し子などの実行役は、「被害者からお金を騙し取る」「ATMを操作する」というハイリスクな場面を担当させられます。つまり、主犯格などに比べると実行役の方が圧倒的に逮捕リスクに晒されているということです。

特殊詐欺行為によって得られる収益のなかで、実行役に配分される割合は極めて少額なのが実情です。「ハイリスク・ローリターン」の闇バイトに関与する実益は乏しいので、目先の数万円に目が眩んで闇バイトに応募するのは絶対にやめましょう。

特殊詐欺に関与するだけで犯罪組織に個人情報がバレてしまう

SNSの闇バイトなどに応募してしまうと、犯罪組織に個人情報を握られます。

たとえば、闇バイトと知らずに実行役として加担してしまった後、事態の深刻さに気付いて関係性を断とうとしても、「特殊詐欺に関与したことを家族や学校にばらすぞ」などと脅されて、犯罪行為から抜け出せなくなります

社会更生の可能性を高めるなら、反社会的勢力などとの関係は完全に断つ必要があります。「そもそも闇バイトなどに安易な判断で応募しない」「特殊詐欺グループから脅されているときには弁護士に対応を任せる」という方針を明確化してください。

特殊詐欺が原因で逮捕されると長期間身柄拘束される可能性が高い

特殊詐欺への関与を理由に逮捕されると、長期間身柄拘束される可能性が高いです。

なぜなら、特殊詐欺事件及びこれをめぐる捜査活動には以下の特徴があるからです。

  • 複数の共犯者が関与している可能性が高いので特殊詐欺事件の全貌を明らかにする必要がある
  • 捜査線上に上がっていない被害者を調べる必要がある
  • テレグラムなどの匿名性の高いツールに対する入念な解析作業が必要になる
  • 犯罪組織自体を壊滅させなければ更に複雑化した特殊詐欺事件を招きかねない

以上を踏まえると、一度でも特殊詐欺事件への関与を理由に逮捕・勾留されると、数週間~数カ月の身柄拘束を覚悟しなければいけないでしょう。

身柄拘束短縮化を目指すなら捜査段階から入念な防御活動が不可欠なので、かならず刑事事件に強い私選弁護人までご依頼ください

特殊詐欺を理由に逮捕されると学校から何かしらの処分が下される可能性が高い

闇バイトのような軽い動機がきっかけだったとしても、特殊詐欺事件に関与したことや逮捕されたことが学校にバレると、何かしらの処分を下される可能性が高いです。

学校側から下される処分内容は学則・校則のルールによって決定されます。たとえば、学生の犯罪行為に対して厳しい考え方をもつ学校であれば、特殊詐欺事件という極めて悪質な犯罪に手を染めたことを理由に退学処分が下されることもあるでしょう。

これに対して、学生の社会更生や教育に力を入れている学校の場合には、特殊詐欺事件に関与した経緯や被害額などを総合的に考慮したうえで、厳重注意停学処分・出席停止などの軽い処分で済む可能性もあります。

刑事手続き初期段階から弁護士に相談をしておけば「学校には連絡をしないで欲しい」などの要望を捜査機関に伝えることによって学校バレのリスクを軽減してくれるでしょう。

特殊詐欺を理由に逮捕されると会社から懲戒処分が下される可能性が高い

特殊詐欺事件に関与したこと、詐欺罪・窃盗罪などの容疑で逮捕されたことが現在の勤務先にバレると、懲戒処分を下される可能性が高いです。

懲戒処分の種類は「戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇」に大別されます。そして、どのような懲戒処分が下されるかは、特殊詐欺事件の詳細を踏まえて就業規則の懲戒規定に基づいて判断されます。

たとえば、特殊詐欺事件に何度も加担して相当額の被害を生み出し、実行犯のまとめ役や指示役としての職責を担うような悪質な状況で逮捕されるに至った場合には、いきなり懲戒解雇処分が下される可能性があります。これに対して、たった一度だけ闇バイトに参加しただけなのに逮捕されてしまったものの、適切な防御活動の結果「不起訴処分」獲得に至った場合、戒告・譴責などの軽い懲戒処分で済むこともあり得るでしょう。

会社から下された懲戒処分の内容に不満があるなら、弁護士に相談すれば処分内容について争ってくれる可能性もあります。仕事・キャリアに支障が生じないことが社会復帰の可能性を左右するので、刑事事件や労働紛争に強い弁護士まで適宜ご相談ください

特殊詐欺への関与を理由に逮捕されると実名報道される危険性がある

特殊詐欺事件への関与を原因に逮捕されると、顔写真付きで実名報道される危険性があります。

そもそも、どのような刑事事件をニュースなどで配信するかは報道機関の裁量事項です。

ただし、特殊詐欺や闇バイト問題が社会的に関心を集める事項であることを踏まえると、特殊詐欺に関与して逮捕されると、少なくともローカルニュースレベルで報道されるのは避けにくいでしょう。

そして、一度でも実名報道されると一生インターネット上に情報が残り続けるので、今後の社会生活にさまざまな支障が生じかねません。たとえば、就職活動などの際に氏名をネット検索されるだけで過去に特殊詐欺事件に関与したことがバレてしまいます。

実名報道のリスクを回避するには、「逮捕されないこと」が何より重要です。過去に特殊詐欺事件に関与した経験がある方は、警察からアクションがある前に刑事事件に強い弁護士に相談して在宅事件処理を目指してもらうべきでしょう

特殊詐欺を理由に逮捕・起訴されると前科がつく

特殊詐欺事件が警察にバレて逮捕・起訴された場合、高確率で有罪判決が下されます。

そして、有罪判決が確定すると、刑事罰とは別に「前科」がつく点に注意が必要です。

前科とは「有罪判決を受けた経験・経歴」を意味します。前科者になると、以下のデメリットが今後の人生について回る可能性があります。

  • 前科情報は履歴書の賞罰欄への記載義務が生じる(就職活動・転職活動が困難になる)
  • 現在の職種・資格次第では、前科を理由に就業が制限される可能性がある
  • 前科は「法定離婚事由」に該当するので、最終的には配偶者からの離婚申し出を拒絶できない
  • 前科を理由にビザ・パスポートを制限されると、自由に海外旅行・海外出張できない
  • 前科者が再犯に及ぶと刑事処分が重くなる可能性がある

前科を避けるには、「不起訴処分の獲得」が必須です。

検察官の提起判断までの時間は限られているので、逮捕された場合にでは出来るだけ早いタイミングで刑事事件に強い私選弁護人までご相談のうえ、適切な防御活動に尽力してもらいましょう

特殊詐欺で逮捕されたときに弁護士へ相談するメリット3つ

特殊詐欺事件に関与した経験がある方や、ご家族が特殊詐欺事件を起こしたことを理由に逮捕されたときには、出来るだけ早いタイミングで弁護士まで相談することをおすすめします。

なぜなら、刑事事件に強い弁護士の力を借りることによって以下3点のメリットを得られるからです。

  1. 特殊詐欺事件の被害者との間で示談交渉を進めてくれる
  2. 少しでも軽い刑事処分獲得を目指して尽力してくれる
  3. 身柄拘束中の被疑者を接見機会を通じて励ましてくれる

特殊詐欺事件の被害者との間で示談を進めてくれる

特殊詐欺事件に関与したときには「示談」が重要な防御活動になります。

示談とは、「特殊詐欺事件の当事者同士で解決策について直接話し合いを行い、和解契約を締結すること」です。

刑事事件に関して示談が成立すれば以下のメリットが生じます。

  • 微罪処分・不起訴処分・執行猶予付き判決などの軽い刑事処分を獲得しやすくなる
  • 在宅事件や勾留阻止など、身柄拘束期間の短縮化を期待しやすくなる
  • 損害賠償責任や慰謝料の問題など、民事的トラブルも一度に解決できる

特殊詐欺事件における一般的な示談条件

そもそも、どのような示談契約を締結するかは各当事者が自由に決定できます。加害者・被害者双方が納得できる範囲で合意形成を目指しましょう。

なお、一般的な特殊詐欺事件の示談条件は以下の通りです。

  • 加害者が被害者に対して「示談金(特殊詐欺事件の損害・慰謝料など)」を支払う
  • 提出済みの被害届・告訴状を取り下げる
  • 被害申告前なら今後被害届・告訴状を提出しない
  • 捜査機関や裁判所に「処罰感情がないこと」を伝える

特殊詐欺事件の示談交渉を弁護士に依頼するメリット

示談交渉は誰が取り仕切っても良いので、たとえば、特殊詐欺事件の犯人本人や犯人家族が被害者との間で直接話し合いをすることも可能です。

ただし、特殊詐欺事件に関わらず、刑事事件に関する示談交渉はすべてを弁護士に一任することをおすすめします。

なぜなら、示談交渉を弁護士に任せることによって以下のメリットを得られるからです。

  • 特殊詐欺の被害者を特定し、連絡先を入手しやすい
  • 怒りや不安を感じている特殊詐欺事件の被害者とも冷静に交渉を進めることができる
  • 相場通りの示談金条件での合意を取り付けやすい(不当な示談金の釣り上げに対して粛々と対応してくれる)
  • 示談金が高額なケースでは分割払いや担保提供などの条件を柔軟に提示してくれる
  • 契約書の用意・相手方との交渉など、示談交渉に必要なすべての作業を担当してくれる
  • 身柄拘束中の特殊詐欺犯人に代わって示談交渉を進めてくれる
  • 複数の特殊詐欺事件で立件された場合、各被害者との間の示談交渉を同時並行的に進めてくれる

特殊詐欺事件のような悪質な犯罪について嫌疑をかけられたとき、「示談が成立しているか否か」が今後の処遇の命運を握ると言っても過言ではありません。

示談成立のタイミングが早いほど有利な状況を作り出すことができるので、特殊詐欺事件に関与した経験があるなら、今すぐにでも刑事事件に強い弁護士までご相談ください。

少しでも軽い刑事処分獲得を目指して尽力してくれる

刑事事件に強い弁護士は、少しでも有利な状況を作り出すための防御方針・防御方法を提示してくれます。

刑事手続きの状況に応じて検討するべき防御内容は以下の通りです。

  • 自首
  • 微罪処分
  • 不起訴処分
  • 保釈請求
  • 略式手続き
  • 執行猶予付き判決

自首

過去の特殊詐欺事件が警察に発覚していない場合や、特殊詐欺事件自体は発覚しているものの犯人の身元が特定されていない場合には、「自首」が有効な防御活動になります

自首とは、「まだ捜査機関に発覚しない前に、犯人自ら進んで特殊詐欺事件に関与した事実を申告し、刑事処罰を求める意思表示」のことです(刑法第42条第1項)。

自首が有効に成立すると、「刑の任意的減軽」というメリットを得られます。これによって、特殊詐欺事件が刑事裁判にかけられたとしても、執行猶予付き判決を獲得しやすくなるでしょう。

また、警察署に自ら出頭した姿勢が評価されて、微罪処分や不起訴処分を獲得できる可能性も高まります。

特殊詐欺事件について警察から連絡がない段階で弁護士に相談すれば、「自首をするべきか否か」「自首をした後にどのような取調べが実施されるのか」などを検討してくれるでしょう。

微罪処分

特殊詐欺事件が警察に発覚して逮捕されたときには「微罪処分の獲得」が最初の防御目標になります。

微罪処分とは、「捜査活動を開始した刑事事件を送検せずに、警察限りの判断で刑事手続きを終結させる処分類型」のことです(刑事訴訟法第246条但書、犯罪捜査規範第198条)。

微罪処分の対象になると、「起訴処分になるのではないか」と不安を抱える心配はなくなりますし、有罪・前科のリスクも完全に消滅します。また、仮に逮捕されたとしても身柄拘束期間を最長48時間以内まで抑えることができるので、社会生活に生じるデメリットを軽減しやすいでしょう。

一般的に、微罪処分の対象になるには以下の要素を満たすときです。

  • 検察官があらかじめ指定する軽微な罪状について嫌疑をかけられること(窃盗罪、単純横領罪など)
  • 犯情が軽微であること(計画性がない、生活苦を理由に闇バイトに応募してしまったなど)
  • 特殊詐欺事件に関与した回数が少ない
  • 特殊詐欺事件で与えられた役割が重要ではない(計画作成に関与していないなど)
  • 特殊詐欺事件の被害額が少額(2万円以下が目安)
  • 前科・前歴がない完全初犯
  • 家族・親・上司などの身元引受人がいて社会更生を目指す環境が整っている

なお、特殊詐欺のような悪質な犯罪類型で刑事訴追されたときに微罪処分を獲得するのは相当難易度が高い作業です。

刑事事件化する前から弁護士に相談することで微罪処分の可能性が高まるので、速やかに刑事事件に強い弁護士までご相談ください。

不起訴処分

特殊詐欺事件が発覚して送検された場合には「不起訴処分の獲得」が重要な防御目標になります。

不起訴処分とは、「特殊詐欺事件を公開の刑事裁判にかけずに、検察官限りの判断で刑事手続きを終結させる旨の意思表示」のことです。不起訴処分の獲得によって有罪・前科のリスクは完全に消滅し、身柄拘束処分も解かれます。

不起訴処分は以下3種類に大別されます。

  • 嫌疑なし:特殊詐欺に関与した疑いがない場合、誤認逮捕や冤罪の場合
  • 嫌疑不十分:特殊詐欺に関与したことを立証する証拠が足りない場合
  • 起訴猶予:特殊詐欺事件を起こしたこと自体は間違いないが、諸般の事情を総合的に考慮すると、刑事裁判にかける必要がない場合

特殊詐欺事件に関与した経験がある方は、「起訴猶予処分」獲得を目指すことになります(刑事訴訟法第248条)。

起訴猶予に付するか否かを判断するときには、「犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の情況」などの諸般の事情が総合的に考慮されます。

不起訴処分獲得実績豊富な私選弁護人にご依頼のうえ、起訴猶予処分獲得に役立つ証拠や供述方針についてアドバイスをもらいましょう。

保釈請求

特殊詐欺事件について起訴処分が下された場合、早期に「保釈請求」を履践する必要があります。

なぜなら、保釈請求を行わなけば、刑事裁判までの数カ月間及び最終的に判決が確定するまで起訴後勾留によって身柄拘束期間が継続する可能性があるからです。

特殊詐欺事件のような共犯者の問題が生じる事件類型では保釈請求自体も簡単ではありません。以下3種類の保釈手続きが定められているので、適宜弁護士に適切な手続きを履践してもらいましょう。

  • 権利保釈(保釈除外事由に該当しない限り認められる保釈)
  • 裁量保釈(裁判官の裁量によって認められる保釈)
  • 義務的保釈(身柄拘束期間が不当に長期化している場合に認められる保釈)

略式手続き

特殊詐欺事件が「窃盗罪」で立件されたときには、「略式手続き(略式裁判・略式命令・略式起訴)」が重要な選択肢になります。

略式手続きとは、「簡易裁判所の管轄に属する刑事事件について100万円以下の罰金刑が想定される場合に、被疑者側の同意がある場合に限って、公開の刑事裁判を省略して簡易・簡便な形で罰金刑を確定させる裁判手続き」のことです(刑事訴訟法第461条)。

詐欺罪の法定刑には罰金刑が規定されていないので略式手続きを利用する余地は残されていません。これに対して、窃盗罪の法定刑には罰金刑が掲げられているので「略式手続きによる早期解決」の可能性があります。

「公開の刑事裁判で反論する機会を放棄したとしても早期に刑事手続きを終結させたい」と希望する場合には、弁護士とご相談のうえ、略式手続きに同意するか否かをご判断ください

執行猶予付き判決

特殊詐欺事件について起訴されたときには、「執行猶予付き判決の獲得」が防御目標になります。

なぜなら、実刑判決が確定すると刑期を満了するまで服役を強いられて社会復帰が困難になるからです。

執行猶予付き判決を獲得するには、「3年以下の懲役刑・禁錮刑・50万円以下の罰金刑の言渡しを受けたとき」という要件を満たさなければいけません(刑法第25条第1項)。

自首減軽・酌量減軽などの防御活動を尽くさなければ実刑判決のリスクに晒されるので、かならず刑事裁判経験豊富な私選弁護人までご依頼ください。

身柄拘束中の被疑者を接見機会を通じて励ましてくれる

特殊詐欺事件の容疑で逮捕・勾留されると、接見禁止処分が下されるので、家族などとは一切面会できません。

これに対して、被疑者には接見交通権が認められているので、弁護士とはいつでも自由に面会できます(刑事訴訟法第39条第1項)。

弁護士は接見機会を通じて以下のメリットをもたらしてくれるでしょう。

  • 取調べにおける供述方針を明確化してくれる
  • 被疑者ノートを差し入れて違法捜査のリスクヘッジをしてくれる
  • 被疑者の唯一の味方として励ましてくれる
  • 家族や会社への伝言を承ってくれる

特殊詐欺で逮捕されるか不安なときは弁護士へ相談しよう

特殊詐欺事件に関与して逮捕されるか不安な方、ご家族が特殊詐欺事件への関与を理由に逮捕された方は、すみやかに刑事弁護に力を入れている専門家までご相談ください。

早期の示談交渉や捜査機関への働きかけによって少しでも有利な状況を作り出してくれるでしょう。

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