ネコババで逮捕される時の犯罪とは?窃盗・占有離脱物横領で早期示談するメリットを解説

ネコババで逮捕される時の犯罪とは?窃盗・占有離脱物横領で早期示談するメリットを解説
ネコババで逮捕される時の犯罪とは?窃盗・占有離脱物横領で早期示談するメリットを解説

ネコババは窃盗罪や遺失物等横領罪に該当する犯罪なので、ネコババしたことが警察にバレると捜査活動がスタートします。

「そもそもネコババは現行犯逮捕以外バレようがないのでは?」「過去のネコババが今さら掘り返されるわけない」と思われるかもしれませんが、これは間違いです。なぜなら、防犯カメラ映像等の証拠によってネコババ犯は簡単に特定されるからです。

たとえば、ネコババ被害者の処罰感情が強かったり、被害額が大きかったりすると、逮捕・勾留によって長期間身柄拘束付きの取調べが実施されて有罪判決が下されかねません

そこで今回は、過去にネコババ事件を起こして後日逮捕されるのではないかと不安を抱えている人や、ご家族が窃盗罪等の容疑で逮捕された方のために、以下5点について分かりやすく解説します。

  1. ネコババが逮捕されるときの犯罪類型と法定刑
  2. 窃盗罪と遺失物等横領罪の違い、ネコババが強盗罪に問われるリスク
  3. ネコババがバレて逮捕されたときの刑事手続きの流れ
  4. 窃盗等の容疑でネコババが逮捕されたときに生じるデメリット
  5. ネコババをしたときに弁護士へ相談するメリット

過去のネコババ行為はいつ警察にバレるか分かりません。

現段階で弁護士へ相談することによって、将来発生し得る刑事訴追のリスクを軽減しておきましょう。

目次

ネコババが逮捕されるときの犯罪類型

ネコババ事件を起こした場合、以下4つの犯罪の嫌疑をかけられて逮捕される可能性があります。

  • 窃盗罪
  • 遺失物等横領罪
  • 詐欺罪

なお、窃盗犯や置き引き犯人が「ネコババ(猫糞)」と呼ばれる由来は、糞をした後に砂をかけて隠す猫の習性を、悪事を働いて隠したまま逃げ去る様子になぞらえたのがきっかけだと言われています。

窃盗罪

ネコババをしたときに問われる主な犯罪類型のひとつに「窃盗罪」が挙げられます。

窃盗罪とは「他人の財物を窃取したとき」に成立する犯罪のことです(刑法第235条)。

窃盗罪の法定刑

窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」です。

まず、ネコババで逮捕された場合、悪質性の高い事案(前科前歴がある場合、被害額が大きい場合、被害者の処罰感情が強い場合など)では実刑判決が下される可能性があるという点を押さえなければいけません。「ネコババは子どもの悪戯みたいなものだから怒られる程度で済むだろう」などと安易に考えるのは厳禁です。あくまでもネコババは犯罪であり、万引き・ひったくり・泥棒・空き巣・スリなどと同じ範疇で扱われます。

これに対して、ネコババをしたことが捜査機関に発覚したとしても、初犯で示談済みなら、いきなり実刑判決が下されることは考えにくいのが実務です。たとえば、有罪判決が下されるとしても執行猶予付き判決・罰金刑で済むことが多いですし、刑事手続きの初期段階から適切な防御活動を展開すれば、微罪処分や不起訴処分だけではなく、逮捕処分自体を回避することも難しくはありません。

したがって、ネコババ事件を起こした場合には、逮捕されたか否かに関わらず、現段階で刑事弁護に強い専門家に相談したうえで、今後の防御方針についてアドバイスをもらうべきでしょう。

ネコババが窃盗罪で逮捕されるパターン

ネコババ事件に対して窃盗罪の容疑をかけられる代表例は以下の通りです。

  • 職場の上司の財布からお金を抜き取る行為
  • ゴルフ場のロストボールを持ち去る行為
  • 知人宅を訪問したときに財布をパクる行為
  • ショッピングモールのフードコートに置かれた場所取り用の鞄を盗む行為

窃盗罪の構成要件

ネコババ事件が窃盗罪の容疑で立件されるには、以下4点の構成要件を満たす必要があります。

  1. 他人の財物
  2. 窃取
  3. 故意
  4. 不法領得の意思

ネコババ事件は窃盗罪の要件を満たすか否かが争点になることが多いので、以下の解説をご参照のうえ、刑事事件に強い弁護士までご相談ください。

要件1.他人の財物

窃盗罪の客体は「他人の財物」です。

まず、財物とは、「空間の一部を占める有形的存在をもつ有形物(固体・液体・気体)」を意味します。たとえば、現金や財布、ハンドバッグなどをネコババした場合、窃盗罪の客体であることに疑いはないでしょう。

次に、窃盗罪の客体である財物には「財産的価値」が不可欠です。財産的価値の有無を判断する際には、金銭的価値・経済的価値だけではなく、所有者や管理者にとっての主観的価値や、「他人の手にわたると悪用されるリスクがあるので自分の手元に置いておきたい」という消極的価値など、諸般の事情が考慮されます。

たとえば、ネコババ犯人は「このハズレ馬券には換金価値がないから勝手に貰っても罪に問われないだろう」と考えていたとしても、ハズレ馬券所有者にとっての記念品で大切に保管していたような事情があれば、窃盗罪の客体としての財物性が肯定されるでしょう。これに対して、代替性の高いどこにでもあるようなちり紙をネコババしたようなケースでは、金銭的価値が極めて僅少であることを理由として財物性が否定される可能性もあります。

以上を踏まえると、ネコババをして窃盗罪の容疑で逮捕されたとしても、ネコババをした財物の性質次第では財物性が否定されて、「嫌疑なし」を理由とする不起訴処分や無罪判決獲得も不可能ではないということです。刑事事件を専門に取り扱っている弁護士ならあらゆる法的観点から依頼人の利益最大化に向けて尽力してくれるでしょう。

要件2.窃取

窃盗罪の実行行為は「窃取」です。

窃取とは、「他人が占有する財物を、占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転させる行為」のことを意味します。これは、窃盗罪が移転罪であり、「他人の所有権」ではなく「他者の占有」侵害が窃盗罪の保護法益と考えられているからです(最決昭和61年7月18日最決平成元年7月7日)。

ネコババ事件が窃盗罪との関係で争点になることが多いのが、「ネコババした財物が他人の占有下にあったか否か(占有の帰属先)」という点です。というのも、他人の占有下にある財物をネコババした場合に重い法定刑が定められている窃盗罪で逮捕されますが、他人の占有下にない財物をネコババした場合には相対的に軽い法定刑が定められている遺失物等横領罪で処断されるに過ぎないからです。つまり、ネコババ事件を起こして窃盗罪の容疑で逮捕されたとしても、「ネコババした財物は誰の占有下にもない財物なので窃盗罪は成立しない、遺失物横領罪の容疑に変更すべきた」という法的主張が可能だということです。

そもそも、窃盗罪における「占有」とは、「財物に対する事実上の支配」を意味します。そして、「財物に対する事実上の支配があるか否か」を判断する際には、「占有の事実(財物を事実上支配している状態、客観的要件)」及び「占有の意思(財物を事実上支配しようとする意思、主観的要件)」の2点から判断されます。

たとえば、旅館に宿泊中、許諾されていないのに提供された浴衣を身に着けたまま外出した場合には、当該浴衣をネコババしたとみなされて窃盗罪の成立を認めるのが判例です(最決昭和31年1月19日)。客観的な占有の事実だけに注目すると、着用している本人に浴衣の占有が認められる(旅館管理者に浴衣の占有が認められない)ようにも思えますが、社会通念上旅館が所有権を握る浴衣に対する占有権は旅館にあると看るのが一般的ですし、旅館サイドにも各宿泊客に提供している浴衣に対する占有意思があると考えられるからです。

また、電車内の忘れ物をネコババした事案のように、客観的な占有の事実が特に争点になるケースでは、「財物自体の特定、財物の置かれた場所的状況、財物との時間的・場所的間隔、支配の態様」も占有帰属先の判断時に考慮されます。

たとえば、運行中で誰でも出入りできるような状況で電車内に財布を置き忘れて、所有者が既に電車から降りてしまった場合には、財布の占有は誰にも帰属していないと考えられるので、当該財布をネコババしても遺失物等横領罪が成立するにとどまるでしょう(大判大15年11月2日)。これに対して、電車が運転終了後車庫に入っている状況で客が置き忘れた財布をネコババした場合には、持ち主の財布に対する占有は存在しないものの、鉄道会社の財布に対する占有を肯定できるので、窃盗罪で逮捕されます(大判大8年4月4日)。さらに、降車駅が近付いてきたので離席したが持ち主が財布を忘れたことに気付いて数メートル移動してすぐに戻ってきた場合には、場所的・時間的近接性を考慮すると当該財布の占有は未だ持ち主にあると判断できるので、ネコババをすると窃盗罪が成立します(最判昭32年11月8日)。

このように、ネコババ事件で逮捕された場合には、窃盗罪の成立自体を争う余地が残されているケースが少なくありません。刑事弁護に強い専門家なら過去の裁判例を活用するなどして有利な法的主張を展開してくれるでしょう。

要件3.故意

窃盗罪の主観的要件のひとつに「故意」が挙げられます。窃盗罪は故意犯なので、「他人の財物を窃取すること」に対する認識・認容が必要です(刑法第38条第1項)。

ネコババ事件の関係で問題になるのが、ネコババ犯の主観と客観的事実との間に乖離があるケースです(いわゆる「抽象的事実の錯誤」の問題)。たとえば、誰の占有にも帰属していない落とし物をネコババしたつもり(主観は遺失物等横領罪)だったが、持ち主が現場近くにいてすぐに戻ってきたために占有の事実が認められる(客観は窃盗罪)ようなケースが代表例として挙げられます。

そもそも、「重い罪に当たるべき行為をしたのに、犯行当時その重い罪に該当することになる事実を知らなかった場合には、その重い罪によって処断することはできない」というのが刑法上のルールです(刑法第38条第2項)。そして、主観と客観にズレが生じるケースにおいてどのような犯罪の成立を認めるかについて、判例通説は「行為者が認識・予見した事実が該当する構成要件と実際に生じた事実が該当する構成要件が実質的に重なり合う場合に、重なり合いが認められる限度において故意犯が成立する」としています(最決昭和54年3月27日、最決昭和61年6月9日)。

窃盗罪の客体は「他人の占有する他人の財物」であるのに対して、遺失物等横領罪の客体は「他人の占有下にない他人の財物」なので、両罪の客体はお互いを除外する関係にあり、重なり合いは認められないようにも思えます。

ただ、窃盗罪・遺失物等横領罪の行為態様は類似しており、「自分の物ではない他者の物を領得する」「他者の所有権が侵害されている」という点において共通項が多いと言えるでしょう。この点を重視して、窃盗罪及び遺失物等横領罪の間には実質的な重なり合いがあるとするのが判例です。

したがって、遺失物等横領罪のつもりで窃盗罪に該当する行為に及んだ場合、窃盗罪のつもりで遺失物等横領罪に該当する行為に及んだ場合には、いずれも遺失物等横領罪が成立すると考えられます。ネコババ事件について窃盗罪の容疑で逮捕された場合には、個別の具体的事情次第では、抽象的事実の錯誤論に基づいて遺失物等横領罪への切り替えの主張が通る可能性も少なくないので、刑事弁護に強い専門家までご相談ください

要件4.不法領得の意思

故意とは別に、窃盗罪の主観的要件として「不法領得の意思」が挙げられます。

不法領得の意思とは、「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法にしたがって利用・処分する意思」のことです(大判大4年5月21日)。ここから、不法領得の意思のポイントとして、権利者排除意思利用処分意思の2点が導かれます。

まず、ネコババした財物を一時的に利用して返却するつもりだった場合(一時使用のケース)には、権利者排除意思の有無が問題になります。いわゆる「使用窃盗」に該当すれば窃盗罪は成立しないので不可罰です。

ただし、「返却する意思があった」と主張するだけで窃盗罪の成立が否定されるわけではなく、「返却する意思があったこと」「一時的に利用するつもりだったこと」を裏付けるだけの客観的な証拠が必要です。たとえば、ネコババした傘を数分後に返却するために拾い場所に戻ってきたようなケースなら一時利用を主張・立証しやすいですが、ネコババしてから数時間以上が経過しているのに「後から返却するつもりだった」と主張したところで、権利者排除意思が否定されることは考えにくいでしょう。

次に、ネコババした財物を最初から毀棄・隠匿する目的だった場合には、利用処分意思の有無が問題になります。利用処分意思が否定されるケースでは窃盗罪は不成立で、器物損壊罪(刑法第261条)で処罰されるにとどまります。

以上のように、ネコババ事件を起こしたことを理由に窃盗罪で逮捕されたとしても、取調べの過程で不法領得の意思を否定する材料が明らかになるケースも少なくありません。権利者排除意思を否定できれば不可罰になりますし、利用処分意思を否定できれば法定刑が軽い器物損壊罪に切り替えられるので、刑事事件に強い弁護士に適切な主張立証を尽くしてもらうべきでしょう。

ネコババをしようとしただけでも窃盗未遂罪で逮捕され得る

他人の財物をネコババして占有を取得した場合に窃盗既遂罪が成立します。

ただし、窃盗罪は未遂犯も処罰対象にされているので、実際に占有を取得するに至らなくても、ネコババ行為について「実行の着手」があった時点で窃盗未遂罪の容疑で逮捕されます(刑法第44条、第243条)。

窃盗未遂罪の法定刑は既遂と同じ「10年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」です。ただし、既遂に至らずに未遂にとどまった点が斟酌されて、刑罰等が任意的に軽減される可能性があります(同法第43条本文)。

ネコババが窃盗未遂罪で逮捕されるのは「実行の着手」がポイント

窃盗未遂罪は「他人の財物の占有を取得する」という分かりやすい結果が生じる前段階を処罰対象とする犯罪類型なので、ネコババ事件に対して窃盗未遂罪の嫌疑をかけられた場合には「実行の着手があったか否か」が争点になることが多いです。

まず、「実行の着手」とは「既遂の危険が現実的・具体的に惹起されたこと」を意味します。ネコババ事件にあてはめると、財物に対する他人の占有が奪われる具体的・現実的な危険性が生じた場合に、ネコババ犯が窃盗未遂罪の容疑で逮捕されるということです。

そして、既遂の危険が現実的・具体的に惹起されたか否かは、ネコババ事件の内容や行為意思などを踏まえて、個別具体的に認定されます。

ネコババが窃盗未遂罪で逮捕される具体例

たとえば、ベンチに置き忘れている財布をネコババするチャンスを狙って周囲をうろつき、人気がなくなったタイミングで財布に手をかけた場合、その時点で窃盗未遂罪が成立すると評価され得るでしょう(もっとも、実際に捜査機関が張り込みなどをしている場合には、未遂段階で現行犯される可能性は低く、実際に財布をネコババして逃走を図ろうとした窃盗既遂のタイミングで声がかけられるでしょう)。

また、空き巣事案の場合には、居宅内の財物の占有移転行為に直接着手しなくても、住居に侵入して財物を物色している段階で窃盗未遂罪の成立が認められた事例も存在します(最判昭和23年4月17日)。さらに、金品を物色するためにタンスに近付く行為(大判昭和9年10月19日)、車上狙い目的で自動車ドアの鍵穴にドライバーを差し込んだ行為(東京地判平成2年11月15日)など、窃取行為の前段階でも財物奪取の危険性が相当程度高まった段階で処罰対象になります。

ネコババを試みたが財物窃取にまでは至らず、それにも関わらず窃盗未遂罪で逮捕された場合には、「既遂の現実的・具体的危険性が発生していないので無罪だ」と主張する道も残されているので、刑事事件を専門に取り扱っている弁護士までご相談ください

親族間のネコババ事件は逮捕されない

ネコババが窃盗事件として扱われている場合、当事者の関係性次第で刑事訴追を回避できる可能性があります(親族相盗例)。

まず、配偶者・直系血族・同居親族との間でネコババ事件を起こした場合には刑が免除されます(刑法第244条第1項)。また、「配偶者・直系血族・同居親族」以外の親族との間でネコババ事件を起こすと、当該窃盗事件は親告罪と扱われ、被害者の告訴がなければ逮捕・起訴されません(同法第244条第2項)。「同居親族」に内縁の配偶者は含まれず、また、親族に家庭内の一室を賃借している場合や一時宿泊しているに過ぎない場合も親族相盗例の対象外です。

窃盗罪について親族相盗例が定められているのは、「親族間の紛争は親族間の解決に委ね、たとえ当事者から刑事的解決を求められたとしても、刑罰権力による介入は差し控えるべきだ」という政策的判断に基づきます。

とはいえ、親族間でのネコババ事件だからこそ解決に向けた話し合いがこじれるということも充分にあり得るので、親族相盗例が適用されて刑事責任を問われる可能性がゼロだとしても、弁護士に相談をして、民事的な解決をサポートしてもらうべきでしょう。

ネコババ事件の被害者と揉み合いになると事後強盗罪で逮捕される可能性が生じる

ネコババ事件の経緯次第では、窃盗罪ではなく事後強盗罪の容疑で逮捕されるリスクに晒されます。

事後強盗罪とは、「窃盗罪を犯した者が、窃取した財物を取り返されることを防ぐ目的・逮捕を免れる目的・罪跡を隠滅する目的で、暴行または脅迫を用いたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第238条)。

事後強盗罪の法定刑は「5年以上の有期懲役刑」です(同法第236条第1項)。また、事後強盗犯が被害者を負傷させたときには「強盗致傷罪(無期または6年以上の懲役刑)」、被害者を死亡させたときには「強盗致死罪(死刑または無期懲役刑)」で処断されます(同法第240条)。

たとえば、ベンチの財布をネコババしたが近くに居合わせた所有者に追跡されて、何とか逃げるために暴力行為に及んでしまった場合には、窃盗犯ではなく強盗犯として逮捕されます。

ネコババ事件について事後強盗罪の容疑をかけられているケースでは、窃盗罪よりもはるかに悪質な違法行為に及んだことが重視されるので、警察は後日逮捕に向けて本格的な捜査活動に踏み出す可能性が高いです。現段階で警察から問い合わせがなくても近い将来通常逮捕が実施されるのは間違いないので、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談のうえ、自首などの防御策について前向きに検討してもらうべきでしょう。

事後強盗罪における「暴行または脅迫」は、強盗罪における「暴行または脅迫」と同程度のものでなければいけません。具体的には、被害者等の反抗を抑圧すべき程度の暴行・脅迫が必要です。また、事後強盗罪は強盗犯と同列に扱われるものである以上、暴行・脅迫は、ネコババ事件の犯行現場または窃盗の機会継続中に行われることが求められます。たとえば、ネコババ事件を起こした後、数時間経過後や犯行現場から数キロ離れた場所でたまたま実施された職務質問中に暴行・脅迫を働いたとしても、事後強盗罪ではなく、窃盗罪及び暴行罪が別々に成立すると扱われるでしょう(最決平成14年2月14日など)。

ネコババ事件の同種前科があると常習累犯窃盗罪で逮捕される可能性が生じる

ネコババ事件を起こした犯人に窃盗罪等の前科がある場合には、単純窃盗罪ではなく、常習累犯窃盗罪で逮捕される可能性もあります。

常習累犯窃盗罪とは、「過去10年以内に「窃盗既遂罪」「窃盗未遂罪」「窃盗罪と他罪との併合罪」で6カ月以上の懲役刑の執行を3回以上受けて刑務所に収監された経歴がある者が、窃盗既遂罪・窃盗未遂罪に該当する泥棒行為に及んだとき」に成立する窃盗罪の加重類型のことです(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第3条)。

単純窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」でしたが、常習累犯窃盗罪の法定刑は「3年以上の有期懲役刑」と定められています。単純窃盗罪の法定刑の下限が1カ月以上である点と比べると(刑法第12条第1項)、常習累犯窃盗罪の法定刑は下限が大幅に引き上げられていることが分かります。

なお、ネコババ事件を過去に何度も繰り返していたとしても、捜査機関に発覚したのが初めてのケースや、過去に捜査が及んだ経験はあっても微罪処分・不起訴処分・執行猶予付き判決・罰金刑で済んでいるケースでは、常習累犯窃盗罪は適用されません。

ネコババのような窃盗罪は再犯率が高く、また、クレプトマニアなどの精神疾患が理由になっている場合も少なくないので、刑事事件に力を入れている弁護士に相談のうえ、カウンセリング機関や療養施設を紹介してもらいましょう

遺失物等横領罪

ネコババをしたときに問われる主な犯罪類型のひとつに「遺失物等横領罪(占有離脱物横領罪)」が挙げられます。

遺失物等横領罪とは「遺失物や漂流物その他占有を離れた他人の物を横領したとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第254条)。

遺失物等横領罪の法定刑

遺失物等横領罪の法定刑は「1年以下の懲役刑または10万円以下の罰金刑もしくは科料」と定められています。窃盗罪の法定刑と比較すると相当軽いのが特徴です。

したがって、ネコババ事件について窃盗罪の容疑で逮捕された場合には、「誰の占有下にもない財物を盗っただけなので窃盗罪ではなく遺失物等横領罪が成立するはず」という防御活動が功を奏することも少なくないでしょう。

遺失物等横領罪の構成要件

ネコババ事件が遺失物等横領罪で逮捕されるには、以下2点の成立要件を満たす必要があります。

  1. 遺失物や漂流物など、他人の占有を離れた他人の物(占有離脱物)
  2. 横領行為
要件1.占有離脱物

遺失物等横領罪の客体は「占有離脱物」です。占有離脱物とは「所有者の占有を離れた物」のことであり、遺失物・漂流物は例示でしかありません。

ネコババ事件との関係で問題になるのが、「ネコババをした財物が所有者の占有下にあるのか、誰の占有下にもないのか」という点です。つまり、所有者の占有下にある財物をネコババした場合には窃盗罪で逮捕されますが、誰の占有下にもない財物をネコババした場合には遺失物等横領罪の対象になるので、財物の占有状況によって窃盗罪・遺失物等横領罪が済み分けられるからです。

窃盗罪の「窃取」の項目で紹介したように、「財物に対する事実上の支配」の有無は、客観的及び主観的観点から判断されます。たとえば、ショッピングモール内に設置されたベンチに買い物袋が放置されており、所有者は置き忘れたことに気付かずに帰宅をし、買い物袋が数時間そのままの状態にある場合には、当該買い物袋は誰の占有下にもないと判断される可能性が高いので、ネコババをしても遺失物等横領罪で逮捕されるにとどまるでしょう。

要件2.横領行為

遺失物等横領罪の実行行為は「横領行為」です。

横領行為」とは、「不法領得の意思を実現する一切の行為」のことです。そして、「不法領得の意思」は「占有離脱物について権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」を意味します(最判昭和27年10月17日)。

窃盗罪の「不法領得の意思」では権利者排除意思と利用処分意思が要素として挙げられていましたが、遺失物等横領罪では幅広い行為が横領行為に含まれると解するのが一般的です。そのため、ネコババした物を売買・贈与・質入れ・費消・着服する場面だけではなく、毀棄隠匿したり一時使用したりする場合でも、遺失物等成立罪は成立します。

詐欺罪

ネコババ事件を起こした場合、1項詐欺罪で逮捕される可能性もあります。

詐欺罪とは、「人を欺いて財物を交付させたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第246条第1項)。詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役刑」と定められています。

詐欺罪の成立要件は以下4点です。

  1. 欺罔行為
  2. 錯誤
  3. 交付行為による財物の移転
  4. ①②③に因果関係があること

ネコババ行為が詐欺罪の容疑をかけられる代表例として「釣銭詐欺」が挙げられます。

たとえば、買い物会計時に店員が釣銭を間違って多く渡した場合、釣銭を受け取るタイミングで金額間違いに気付いていたがそのまま受領したケースでは、「告知義務違反を理由とする不作為の欺罔行為」が認められるので、詐欺罪が成立すると考えられています。

これに対して、釣銭を受け取ってから金額間違いに気付いたが差額を返さずに現場から立ち去った場合には、詐欺罪ではなく遺失物等横領罪が成立するにとどまります。これは、「欺罔行為に基づく錯誤」が金額間違いの釣り銭を受領した行為を引き起こしたわけではない(①②③の因果関係がない)からです。

ネコババで逮捕されるときの刑事手続きの流れ

ネコババ行為が捜査機関にバレると、以下の流れで逮捕等の刑事手続きが進められます。

  1. ネコババ事件について警察と接触する
  2. ネコババがバレて逮捕されると警察で48時間以内の取調べが実施される
  3. ネコババの容疑で逮捕された後は、検察官に身柄が送致される
  4. ネコババ事件について検察官が公訴提起するか否かを判断する
  5. ネコババ事件が刑事裁判にかけられる

標準的な刑事手続きの流れは上述の通りですが、ネコババが窃盗罪や遺失物等横領罪に問われる比較的軽微な事件については、刑事手続きの初期段階で適切な防御活動を展開することによって、刑事手続き遂行の負担を大幅に軽減できる可能性が高いです。

もちろん、警察などの捜査機関に主導される形で刑事手続きを進めるのも間違いではありませんが、弁護士への早期相談によって有利な状況を作り出せるという点は看過するべきではないでしょう。

ネコババについて警察から接触がある

ネコババが捜査機関に発覚して刑事事件化される場合、警察との接触によって刑事手続きがスタートするのが一般的です(一部例外的に、検察官や検察事務官によって逮捕・取調べが実施されるパターンもあり得ますが割愛します)。

警察との接触方法は以下3種類に大別されます。

  1. 過去のネコババ行為に関して任意の出頭要請がかけられる
  2. 過去のネコババ行為について後日逮捕(通常逮捕)される
  3. ネコババ行為の現場で現行犯逮捕される

ネコババについて警察から任意の事情聴取を求められる

過去のネコババ行為の嫌疑が高まった場合、警察からの問い合わせ(電話連絡や自宅訪問)によって任意の出頭要請がかけられることが多いです。

そもそも、警察による出頭要請や事情聴取に応じる義務はありません。なぜなら、警察は犯罪捜査の必要性があると判断した場合には自由に取調べ等を実施できるとされますが、その一方で、令状に基づかない任意捜査には捜査対象者への強制力が働かないからです(刑事訴訟法第197条第1項、第198条第1項)。

たとえば、警察からネコババ事件について話を聞きたいと電話がかかってきたとしても、仕事の都合が合わなかったり気分が乗らなかったりすれば拒否しても差し支えないですし、任意の取調べを拒絶したことを理由に何かしらの制裁が加えられることはありません。

ただし、警察からネコババ事件について任意の出頭要請がかかった場合には、捜査機関の意向に沿って対応した方がメリットが大きいです。なぜなら、警察からの連絡を無視したり任意の取調べに応じなかったりすると、裁判官の発付する逮捕状に基づき通常逮捕手続きが実施されて、強制的な身柄拘束を避けられないからです。また、任意ベースでの捜査活動に誠実に対応すれば、仮にネコババ事件について起訴されたとしても、在宅事件処理の期待が高まるでしょう。

つまり、警察側が任意捜査主体でネコババ事件に対する手続きを進める方針であるなら、これに応じることによって「身柄拘束処分によって生じる日常生活へのさまざまな支障」を回避できるということです。任意段階で弁護士に相談しておけば、任意の取調べへの対応方法や供述方針についてのアドバイスを貰えるでしょう。

在宅事件とは、「逮捕・勾留による身柄拘束なしで、取調べや裁判手続きが進行する事件処理」のことです。捜査機関や裁判所から呼び出しがあったタイミングに合わせて出頭しなければいけませんが、日常生活を送りながら刑事手続きを遂行できるので、会社や学校生活に支障が生じる可能性は低いでしょう。ネコババ事件について在宅事件処理される可能性が高いのは、以下のような要素を備えた事件類型です。

  • ネコババ事件に関する任意捜査に誠実に対応している
  • 窃盗罪や占有離脱物等横領罪の前科・前歴がない(初犯)
  • 住所や職業がはっきりしており逃亡のおそれがない
  • ネコババ事件に関する供述内容に嘘や矛盾点がない、否認していない
  • ネコババ事件について余罪に及んでいる可能性が低い
  • ネコババ被害者との間で示談交渉が進んでいる、示談済み
  • 事後強盗罪に問われる事案ではない

ネコババについて後日窃盗罪で通常逮捕される

過去のネコババ事件が捜査機関に発覚すると、任意の出頭要請の段階と飛ばしていきなり通常逮捕手続きが実施されることもあります。また、当初は任意ベースで取調べ等が実施されていたとしても、その過程で「留置の必要性が高い」と判断されると、途中で通常逮捕手続きに移行する可能性も否定できません。

通常逮捕とは、「裁判官が事前に発付する逮捕令状に基づいて被疑者の身柄を拘束する強制処分」のことです(刑事訴訟法第199条第1項)。

ネコババが窃盗等の容疑で逮捕された場合、任意の出頭要請とは異なり、取調べ等を拒絶することはできません(連行された後、供述拒否権を行使して黙秘を貫くことは許されます)。それどころか、逮捕状を持参して警察がやってきた段階で身柄が完全に拘束されるので、第三者と連絡をとったり、連行のタイミングについてスケジュール調整をすることも不可能です。

個別事案ごとに判断は分かれますが、任意捜査ではなく後日逮捕手続きが選択されるのは、ネコババ事件が以下のような特徴を有するときです。

  • ネコババ事件などの前科・前歴がある
  • 住所や職業が明らかではなく、逃亡のおそれがある
  • ネコババした財物を捨てるなど、証拠隠滅のおそれがある
  • ネコババした財物を転売するなどして不正に利益を上げている
  • ネコババの犯行が疑われるエリアで窃盗被害等の被害申告が多数提出されている
  • ネコババ事件の被害者の処罰感情が強い
  • ネコババした被害額がかなり高額
  • ネコババされた被害者との間の示談交渉が難航している
  • ネコババ事件についての任意出頭要請を無視したり、警察からの電話連絡を着信拒否している
ネコババは捕まらない?窃盗罪等が後日逮捕される理由ときっかけ

「過去のネコババ事件が今さらバレるはずない」「仮にネコババ事件自体が警察に発覚しても犯人特定まで至るはずない」という考えはハイリスクです。

なぜなら、いつどのようなタイミングで逮捕手続きに踏み切るかは警察が自由に決定できるものですし、犯行現場付近や街中に設置された防犯カメラ映像・監視カメラ映像などをフル活用すればネコババ犯の身元特定は簡単だからです。

たとえば、ショッピングモール内でネコババ事件を起こした場合、犯行現場は高確率でモール内に設置されたカメラ映像に録画されています。そして、逃走時に自家用車を使用した場合には、ナンバープレートから簡単に所有者が特定されます。また、自転車や徒歩で逃走したとしても、各所に設置された防犯カメラ映像を順々に辿っていけば、ネコババ犯がどこの誰かを知るのは難しくはないでしょう。

したがって、被害申告されるなどして過去のネコババ事件が警察にバレた場合には、どこかのタイミングで警察から何かしらの形で連絡がくる確率が高いと考えられます。刑事事件の実績豊富な弁護士なら、ネコババ事件の詳細を聞き取ったうえで後日逮捕の可能性を判断してくれるので、自首などの効果的な防御策が選択肢に入ってくるでしょう。

過去のネコババは公訴時効が完成するまで後日逮捕のリスクが継続する

過去のネコババ事件は、未来永劫後日逮捕のリスクを抱え続けるというわけではありません。公訴時効が完成するタイミングで検察官による公訴提起の可能性が消滅するので、その時点で過去のネコババ事件が掘り返されることはなくなります。

公訴時効とは、「一定期間公訴を提起されていない状態が継続した場合に、国家権力が刑罰権を行使できなくなる(検察官による起訴処分が不可能になる)制度」のことです。犯行時からあまりに時間が経過してしまうと、証拠が散逸してもはや真実を発見することが困難になってしまいますし、犯罪の社会的影響が軽減して応報・改善などの目的で刑罰を科す必要性も減少していると考えられるため、訴訟条件のひとつに挙げられています。

ただし、公訴時効期間は犯罪類型ごとに異なる点に注意が必要です(刑事訴訟法第250条第2項各号)。ネコババ事件について問われ得る窃盗罪・遺失物等横領罪・事後強盗罪・詐欺罪については、以下のように公訴時効期間が定められています。

犯罪類型 公訴時効期間
窃盗罪 7年
遺失物等横領罪 3年
事後強盗罪 10年
詐欺罪 7年

「公訴時効が完成するまで何とかして逃げ切る」というのもひとつの方法ですが、ある日いきなり後日逮捕されると、ネコババをしてからの数年間築いたキャリアや社会生活が無に帰するリスクに晒されます。

以上を踏まえると、「過去のネコババ事件について警察から連絡がないから”逃げ得”を狙いたい」という姿勢はおすすめできません。弁護士に相談すれば示談交渉や自首の可否を判断してくれるので、少しでも不安があるなら警察からの連絡の有無にかかわらず専門家の力を借りるべきでしょう。

ネコババは現行犯逮捕されることが多い

ネコババ事件は現行犯逮捕で検挙されることが多いです。

「ネコババをしても現行犯以外で逮捕されることはない」と多くの人が思い込んでいるのは、SNSで拡散された犯行動画やニュース映像等によって作出された先入観が強いからです。

現行犯逮捕とは、「現行犯人(現に罪を行い、または、現に罪を行い終わった者)に対する逮捕処分」のことです(刑事訴訟法第212条第1項)。現行犯人に対する逮捕処分は誤認逮捕のおそれが極めて少ないと考えられるので、通常逮捕手続きとは異なり、裁判官の発付する逮捕状なしでネコババ犯の身柄を拘束することが許されています(同法第213条、令状主義の例外)。

通常逮捕された場合と同様、ネコババ犯が現行犯逮捕された場合にも、被疑者の身柄はその場で取り押さえれて、警察署に連行されます。「別の日にかならず出頭するから今は見逃して欲しい」などの要望はほとんどのケースで受け入れられません。

ネコババ事件を現認されると警察官以外にも現行犯逮捕され得る

現行犯逮捕の典型例は、ネコババをしている現場を通報されて、かけつけた警察官に身柄を押さえられるというものです。

しかし、現行犯逮捕の権限は捜査機関のみに与えられているわけではありません。なぜなら、現行犯逮捕は一般私人でも行うことができるからです(刑事訴訟法第213条)。

たとえば、ネコババされた財物の被害者が犯行にすぐ気付いて犯人を取り押さえたり、周囲の目撃者が逃亡を試みる犯人を拘束したりした場合には、私人による現行犯逮捕(私人逮捕)が成立します。

私人逮捕によって被疑者の身柄が押さえられた場合には、現場にかけつけた検察官・司法警察職員に引き渡されることになります(同法第214条)。

ネコババ現場から立ち去っても準現行犯逮捕される可能性がある

現行犯逮捕の典型例は「ネコババをしたところ、ネコババをし終わったところ」を取り押さえられるケースです。

ただし、以下の要素を有する者が「罪を行い終わってから間もないと明らかに認められるとき」にも現行犯人として令状なしで逮捕される点に注意が必要です。これを「準現行犯逮捕」と呼びます(刑事訴訟法第212条第1項)。

  • ネコババ犯人として追呼されている
  • ネコババをした財物など、窃盗罪等の贓物や犯行に使った兇器などを所持している
  • 身体や被服に犯罪行為の顕著な証跡がある
  • ネコババ犯人だと誰何されて逃走しようとする

ネコババで逮捕されると警察で48時間以内の取調べが実施される

ネコババ行為をして窃盗罪等の容疑で逮捕された場合、警察署で48時間を上限に取調べが実施されます(刑事訴訟法第203条第1項)。

任意の取調べとは異なり、逮捕中に実施される取調べは拒否できません。身柄拘束期間中は第三者との面会・外部への電話連絡が一切禁止されます。

警察段階で実施される取調べでは、ネコババ事件を検察官送致するか否かについて判断が下されます。検察官の判断を仰ぐべき悪質な事案だと判断されると検察官送致されますし、検察官の判断を仰ぐ必要がないと判断された場合には微罪処分に付されます。

したがって、ネコババ事件を起こして警察に逮捕された場合には、微罪処分獲得のために送検判断前に被害者との間で示談成立を目指すべきでしょう。

微罪処分とは、「検察官送致をせずに警察限りの判断で刑事手続きを終了させること」です。そもそも、警察が犯罪捜査をした場合には、書類・証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならないのが原則です(刑事訴訟法第246条本文)。これは、犯罪捜査に関する最終的な決定権は検察官にあるからです。ただし、すべての刑事事件を送検すると検察庁の事務処理が間に合いません。そのため、以下の要素を備える一定の事件については、警察限りの判断で微罪処分を下すことができるとされています(同法第246条但書、犯罪捜査規範第198条)。

  • 検察庁が事前に指定した軽微な犯罪類型に該当すること(窃盗罪、占有離脱物横領罪など)
  • 犯情が軽微であること(計画性がない等)
  • 被害額が少ないこと(ネコババ事件なら2万円以下程度が目安)
  • 示談が成立しており、被害弁償が済んでいること
  • 素行不良者ではないこと(前科・前歴なし)
  • 被害者の処罰感情が薄いこと
  • 取調べに誠実に対応して被疑事実を認めていること(否認していないこと)

たとえば、シンプルなネコババ事件なら、初犯で示談済みなら微罪処分の可能性が高いです。これに対して、ネコババ事件が事後強盗罪に問われる場合や、被害額が相当額に及ぶ場合には、検察官送致を免れられません。いずれにしても、示談成立の有無が命運を分けるので、出来るだけ早いタイミングで弁護士へ相談することを強くおすすめします。

ネコババ事件について警察から検察に身柄が送致される

ネコババ事件について警察で取調べが実施された後は、検察官に身柄が送致されます。

送検後、検察段階の取調べは24時間以内が原則です(刑事訴訟法第205条第1項)。身柄拘束期間満了までに、得られた証拠書類や供述内容から、ネコババ事件を公訴提起するか否かが判断されます。

ただし、やむを得ない事情によって「24時間」の制限を遵守できない場合には、例外的に勾留請求が実施されます。検察官による勾留請求が認められると、身柄拘束期間は10日間~20日間の範囲で延長されます(同法第208条各項)。つまり、逮捕段階からカウントすると、最大23日間身柄拘束付きの取調べを強いられるということです。

したがって、ネコババ事件が検察官送致された場合には、勾留請求・起訴処分回避を目指して防御活動を展開するべきだと考えられます。弁護士による示談交渉が有力な武器になるので、刑事弁護に慣れた専門家までご相談ください。

ネコババ事件について検察官が公訴提起するか否かを決定する

逮捕・勾留に基づく身柄拘束期限が到来するまでに、検察官はネコババ事件を刑事裁判にかけるか判断します。

刑事裁判にかける(公訴提起する)旨の判断のことを「起訴処分」と呼びます。これに対して、刑事裁判にかけずに検察限りの判断でネコババ事件の手続きを終結させる旨の判断は「不起訴処分」です。

日本の刑事裁判の有罪率は99%以上と言われています。つまり、ネコババ事件が刑事裁判のステージに移行した段階で有罪がほぼ確定することになるので、前科を避けるには「起訴処分の回避」「不起訴処分の獲得」が重要だということです。

比較的軽微なネコババ事件なら示談交渉等の防御活動次第で不起訴処分の期待が高まるので、かならず示談交渉のノウハウ豊富な弁護士に相談しましょう

ネコババをしたこと自体に間違いがなくても不起訴処分は下されます。というのも、不起訴処分の理由には「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」の3種類が用意されているからです。たとえば、誰かが落とした財布からお金を抜き取ったようなケースでも、初犯で被害弁償済み、反省の態度を誠実に示して再犯しない旨を誓っている場合には、起訴猶予処分を獲得できます「犯罪がバレたから有罪は避けられない」と諦める必要はないので、弁護士の助言を参考にしながら丁寧に取調べに向き合いましょう。

ネコババが刑事裁判にかけられる

ネコババ事件について検察官が起訴処分を下した場合には、公開の刑事裁判を受けなければいけません。

刑事裁判は起訴処分から1カ月~2カ月後の時期に開廷されることが多く、複数の口頭弁論期日を経ながら冒頭手続き・証拠調べ手続き・弁論手続きが進められます。ただし、公訴事実に争いがなければ、初回の口頭弁論期日で結審し、後日判決が言い渡されます

注意を要するのが、実刑判決・執行猶予付き判決・罰金刑・科料のいずれの内容の判決が言い渡されたとしても、有罪であり前科がつくことには違いないということです。冤罪事件で無罪主張を狙うような例外的なケースを除いて、ネコババ事件が刑事裁判段階まで進んでしまった場合には、「前科がつかないこと」を目指すのは事実上不可能なので、「できるだけ軽い判決内容を獲得すること」が防御活動の方針になります。

逮捕・勾留中に示談成立が間に合わなかったとしても、判決言い渡しまでに和解契約が成立すれば判決内容を有利なものにできるので、最後まで諦めずに弁護士に尽力してもらいましょう。

ネコババ事件が窃盗罪・遺失物等横領罪で立件された場合には、略式手続き(略式命令・略式起訴・略式裁判)で簡単に刑事手続き終結を実現できる場合があります。略式手続きとは、通常の公開裁判とは違って、「検察官が提出した書類に基づいて、簡易裁判所が書面審査によって判決を下す訴訟手続き」のことです。略式手続きを利用できるのは「簡易裁判所の管轄事件であること」「100万円以下の罰金刑または科料を科す事件であること」「略式手続きについて被疑者に異議がないこと」の3要件を満たす場合に限られます。たとえば、公判において検察官が罰金刑を求刑する予定である場合には、わざわざ裁判期日まで刑事手続きを先延ばしにするのではなく、略式起訴段階で早期に手続き終結を目指すのも、社会復帰の難易度という観点からは有益でしょう。

ネコババで逮捕されたときに生じるデメリット3つ

ネコババ事件が捜査機関に発覚して逮捕されると、以下3点のデメリットに晒されます。

  1. ネコババをして逮捕されたことが会社にバレると懲戒処分を下される
  2. ネコババをして逮捕されたことが学校にバレると退学処分等が下される
  3. ネコババが立件されて前科がつくと今後の社会生活にさまざまな支障が生じる

ネコババで逮捕されたことが会社にバレると懲戒処分の対象になる

ネコババが窃盗罪や遺失物等横領罪で逮捕・勾留されると、数日~数週間身柄拘束期間が続くので、「会社に自分の口で欠勤する旨を伝えることができない」という状況に追い込まれます。また、会社関係でネコババ事件を起こした場合には会社に対して聴き取りや捜索等が実施されるでしょう。つまり、ネコババで逮捕された場合には、会社に事件のことがバレる可能性が高いということです。

そして、ネコババ事件で逮捕されたことが会社にバレると、何かしらの懲戒処分が下されます。懲戒処分の内容は就業規則にしたがって決定されますが、窃盗罪や遺失物横領罪等の比較的軽微な刑事事件程度ならば、「出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇」などの厳しい処分内容ではなく、「戒告・譴責・減給」などの軽い処分で済む可能性が高いです。ただし、懲戒処分自体は軽い内容で済んだとしても、従業員からの信用は失墜するので、普段の仕事はやりにくくなってしまうでしょう。

以上を踏まえると、会社への影響を考えたときに重要なのは、「いかに会社にバレずにネコババ事件を終結させるか」という点です。「警察にネコババ事件がバレる前に示談成立を目指す」「警察からの問い合わせに誠実に対応して在宅事件処理を目指す」などの防御策が効果的なので、できるだけ早いタイミングで弁護士までご相談ください

ネコババで逮捕されたことが学校にバレると退学処分等の対象になる

会社員と同じように、学生がネコババ行為に及んで警察に逮捕されると、学校にバレる可能性が高いです。

そして、逮捕されたり有罪になったことが学校に知られると、学則・校則の規定にしたがって何かしらの処分が下されます。たとえば、犯罪行為全般について厳しい考え方をもっている学校の場合にはいきなり停学処分・退学処分が下されることもあり得ますし、更生支援のために譴責・注意などの軽い処分で済ましてもらえることもあるでしょう。

学生生活への影響を最大限軽減するには、被害者との間で早期に示談交渉を開始するのが最優先です。学生犯罪や刑事弁護に強い専門家に相談することをおすすめします。

ネコババで前科がつくと今後の生活にさまざまな悪影響が生じる

ネコババ事件が捜査機関に発覚して有罪判決が下されるに至ると、前科者として扱われます。

そして、ネコババ事件が原因で前科がつくと、今後の社会生活に以下のようなデメリットが生じます

  • 履歴書の賞罰欄に前科情報は記載しなければいけない(就職活動の難易度が高まる)
  • 前科を理由に制限される職種・資格がある(士業、警備員、金融業など)
  • 前科があることは法定離婚事由に該当するので、配偶者からの離婚申し出に対抗できない
  • 前科を理由にパスポートや旅券の発給が制限される
  • 前科があると再犯時に刑事処分・判決が重くなる

前科による諸制限を避けたいなら、「検察官による起訴処分回避」を目標に防御活動を展開しましょう。

ネコババで逮捕されて後悔しないためには弁護士への早期相談が重要

ネコババで後日逮捕されるか不安を抱えていたり、ご家族が窃盗罪等の容疑で逮捕されたりした場合には、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談することを強くおすすめします。

なぜなら、窃盗事件の実績豊富な専門家のサポートを得ることによって、以下3点のメリットが得られるからです。

  1. ネコババ事件の被害者と早期に示談交渉をスタートしてくれる
  2. ネコババ事件について自首するべきか否かを判断してくれる
  3. クレプトマニアなどの療養専門機関を紹介してくれる

軽はずみな気持ちでネコババをしただけでも、窃盗罪等の容疑で厳しい刑事処罰が下されかねません。

今後の人生への悪影響を最大限回避・軽減するために、警察からの問い合わせの有無にかかわらず、現段階で弁護士までご連絡ください

ネコババ被害者との間で早期に示談成立を目指してくれる

ネコババ事件の被害者が判明している場合、弁護士はすぐに被害者との示談交渉をスタートします。

示談とは、ネコババ事件の当事者間で締結する和解契約のことです。一定額の示談金を支払う代わりに、「被害申告しないこと」「被害届や告訴状を取り下げること」「処罰感情がないことを捜査機関や裁判所に伝えること」が約束されます。

弁護士に示談交渉を依頼するメリットは以下3点です。

  1. 担当弁護人でなければ被害者の連絡先を教えてもらえない
  2. 被害申告前に示談を成立できればネコババの刑事事件化自体を回避できる
  3. 捜査機関にネコババ事件が発覚しても、微罪処分・在宅事件化・不起訴処分・略式手続きなどの軽い処分の期待が高まる

過去のネコババについて後日逮捕の不安を抱えているときに自首の是非を検討してくれる

ネコババ事件の後日逮捕に怯えているなら、弁護士に自首するべきか否かを相談してください。なぜなら、刑事事件を専門に取り扱っている弁護士なら経験則にしたがって自首の有効性を判断できるからです。

そもそも、捜査機関にネコババ事件が発覚する前に自首をすれば刑事罰の任意的減刑というメリットが得られます(刑法第42条第1項)。

ただし、ネコババ事件によっては警察にバレようもないことも少なくありません。たとえば、監視カメラ等が一切設置されていない状況で瞬間的に置き引きをしたような事案において、ネコババをしてから半年以上が経過したのに警察から一切連絡がないなら、今後後日逮捕される可能性はそう高くはないでしょう。このような事案では、わざわざ自首をする必要性は低いと考えられます。

盗癖などの悩みを抱えている窃盗犯の再犯防止を支援してくれる

ネコババ犯のなかには、盗癖(クレプトマニア・盗症)などの精神疾患を抱えている人も少なくありません。

そして、仮に立件されたネコババ事件について有利な刑事処分を獲得できたとしても、盗癖自体を根本的に解決しなければ、置き引きや万引きなどの再犯に及ぶリスクが高いです。前科・前歴がある状態で再犯すると刑事処分が重くなってしまうので、防御活動等に尽力した意味が失われてしまいます。

刑事弁護を専門に取り扱っている専門家は、依頼人が抱えている根本的な問題を理解しています。弁護士接見などの機会を活用しながら被疑者を精神的に励ましたり、専門治療機関等を紹介したりするなどのケアも怠らないので、本格的な社会復帰を目指せるでしょう。

ネコババで逮捕されるか不安なときには弁護士へ相談を!早期の示談で軽い刑事処分が実現する

「所詮ネコババ」と思われるかもしれませんが、窃盗罪や占有離脱物横領罪に該当する犯罪行為である以上、警察に発覚すると逮捕される可能性が生じます。

したがって、「ネコババなんてバレようがない」と油断するのではなく、後日逮捕されたときに備えて今の段階で弁護士に相談して防御方針を練っておくのが重要でしょう。弁護士によって専門分野が異なるので、かならず刑事事件を専門に扱っていたり、不起訴処分等の獲得実績がある専門家にご相談ください。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、拘留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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